セカンドブレイン

Evernote(第2の脳): クリエイティビティを創り出す方法

Evernote(第2の脳): デジタル・トランスフォーメーション(DX)で企業での働き方は大きく変化しています。デジタル化が進むなか、個人のクリエイティビティと生産性はどう進められるべきか、セカンドブレイン(第2の脳)を使った方法論を展開します。

By Tiago Forte of Forte Labs(訳: 大山賢太郎)

これまで、タグを中心にした情報管理は破綻するという議論をしました。今回は、この全く逆の視点から進めたいと思います。

それは、

クリエイティビティを発揮するための第2の脳をEvernoteで創る方法

です。

この記事では、これを脳科学にそったワークフロー、創造的な仕事をどのようにEvernoteを使うことで可能にするかを探っていきます。

Evernote(第2の脳)とは?

Evernoteの開発当初からの目標:

ユーザーのセカンドブレイン(第二の脳)となること。

これは一体どのようなことなのでしょうか?第二の脳をどう使うというのでしょう?

詳しい議論に入る前に、まず、Evernoteの利用者が犯す大きな間違いについてから始めます。

それは、Evernoteをメモの記憶装置として捉えていることです。つまり、免許証や領収書、レシートやマニュアルなどのファイルや重要なメモを忘れないように記憶させるという考え方です。

しかしこれは、Evernoteを記憶の目的で使うということでは、知的生産のツールとしての意味は全くありません。

私たちの脳が最も大きな効果を発揮するのは考えるときです。ですから、Evernoteは記憶ではなく、考えるためのツールとして利用することに価値があります。

しかし、これは高望みかもしれません。ソフトウェアが「考える」ことは可能なのでしょうか?

このニューヨークタイムズの記事では、一人の人間の脳の神経回路の総体(全ての神経回路とその関係性のマッピング)は13億テラバイト(Chorost, 2011)であり、これは全世界のコンピュータ総合計の記憶量26億テラバイトの半分に相当するという。

言い換えれば、2人の人間の脳の神経回路をマッピングしようと思えば、全世界全体のコンピュータの100%記憶容量が必要になると言うことです。

そしてこれは構造だけが対象であり、実際のプロセスは含まれません。

また別の研究では、人間の脳の活動をシミュレーションするには、世界4番目のスーパーコンピュータでも40分必要と言われています。

従って、全く比較にはならないことが分かります。

Evernoteは「記憶装置」のような低いレベルでの活用では、創造的な思考のような高いレベルで使わないのであれば、そこから高い価値を得ることはできません。

では、高いパフォーマンスの創造的活動とは、正確には一体何なのしょう?そしてEvernoteをどのように使えばそれが可能になるのでしょうか?

その回答は、

創造性という高いレベルの思考と低いレベルの間にある中間思考のツールとなること。

これを説明するには、創造性とは何かについて、何がそれを可能にするのか、ディープな議論が必要となります。

通常、「創造性とはオリジナルな視点から生まれる・・・」と言われます。

これは、本当でしょうか?

これに答えるためには、「高いパフォーマンスを発揮するクリエイティビティとは何か、そしてそのためにEvernoteをどう使うことができるか」と問いに対する答えが必要です。

Evernote(第2の脳): クリエイティビティとは何か

高いパフォーマンスを発揮するという問いに答えるには、少なくとも次の5つの条件が考えられます。

1. 特異な関係性をみつける

クリエイティビティ(創造性)については、多くの観点から語られています。「創造性とは、全く関係のないようなものどうしの関係を見つけることだ」というものです。

ナンシー C. アンダーソンは「創造性の高いクリエーターは、関係性を理解し、複数の情報館での連携性やつながりを見つけることに長けている」とThe Atlantic紙に投稿しています。

Evernoteが非常に広範囲なメディアフォーマットの情報をキャプチャできるという点が、これをどう使うべきかという議論のヒントとなります。

  • このツールは、SPEEDよりもキャプチャの柔軟性に優先順位をおいている(このツールは驚異的に遅い)
  • コラボレーション(動機エラーが頻繁に起こる)
  • そして、安定性(存在するツールの中でも最もバグが多いツールと言える)

スコット・カウフマンはハーバードビジネスレビューで「・・・特異な関係性に対する感受性が、創造性の重要な要因となる」と言っています。

redditで嗜好がマッチするユーザのつながりを可視化したサイトRedditvizの一部。嗜好の多くにつながりはないように見える。

では、多様性で広範囲に散らばるコンテンツからどのようにつながりを見つける感受性を高めることができるのでしょうか?

2. 体現できる実物モデルを作る

認知に関する研究」では、通常の基本的は思考は抽象的な推論と計画ではなく、「知覚を介した相互作用と環境状況への行動」だと考えられています。

私たちは頭の中の概念的なアイデアではなく、目の前にある実物と触ることのほうが容易に理解できます。

National Research Councilの書籍「Learning To Think Spatially」は、ワトソンとクリックが実物モデルを使うことでDNAの構造を発見できたとしています。

外部の構造物として目の前に体現することで、二次元のダイアグラムでは見ることのできなかったアプローチベクトルを発見できたのです。

自分のアイデアを外部のさまざまなフォーマットに表現することで、テキスト、スケッチ、写真、文書、ダイアグラム、ウェブクリップ、ハイパーリンクなど、手に触り、移動し、編集、並べ替え、つなぎ合わせるなど、複数の「実物モデル」からの分散化された認知のシステムと同様のモデルを作り出すことができます。

これには、AI(人工知能)は必要ありません。この可視化した実物モデルに必要なのは、世界中で最も高度に発達したスーパーコンピュータ – あなたの脳だけです。

3. 長期間にわたってアイデアを育てる

「スローバーン(slow burn)」は、物事のつながりをみつけブレークスルーとなる成果を得るための、最も過小評価されたメソッドです。

ノーベル賞物理学者でありMITの教授であったリチャード・P・ファインマンの次のように語りました。

あなたは12の問題に対する質問を常に頭の中に持ち続けなければいけない。いずれにしても、ほとんどの場合はなんの答えも得られない。新しいテクニックや回答を目にしたとき、この12の質問に照らし合わせて何か得られるか試してみるんだ。でもときどきはヒットがある。そして人々は言うんだ「一体どうやってそんなことができたんだ?あなたは天才だ。」
Ten Lessons I Wish I Had Been Taught, Gian-Carlo Rotaより翻訳

オーグスト・ケクレは、ベンゼンの構造を夢の中で発見しました。

この記事自体が、スローバーンの結果だと言えます。2年以上の期間にわたって収集された、25もの直接とそれ以外の多数の間接的なの参考文献をベースにしているのですが、このレポートはわずか18時間で完成しました。

これを最初から一度に完成させようとしたら、どれほどの時間を必要とするか考えてみてください。

私たちが時間をかけてプロジェクトに取り組むとき、ノートを次のプロジェクトに使うかどうかを考えることはありません。非常に長い時間と多大な労力を費やして取り組んだプロジェクトであっても、その結果を再利用するような管理の考え方はないからです。

ですから、私たちは何を知っているかを知らないと言えます。

なぜならば、貴重な時間とアテンションを使って理解しようと試みたものが、実は切断され、断片化され、さらに分散化され、一貫性のないフォルダやドキュメント名でブラックボックス化されたクラウドのどこかに隠されています。

Evernoteは、スローバーンのインフラとしての機能を提供してくれます。それは、堅牢で汎用的です。そして集中管理と一貫性を可能にしてくれます。だからこそ、先ほどの12の質問に対する問いかけに答えてくれる可能性を秘めているのです。

4. ユニークな解釈と視点を可能にする材料を提供してくれる

最近のAIが人間の仕事を奪うという極端な論調は、正確な事実を反映していません。

AIに置き換えられているのは低いレベルのスキルではなく、高度な教育を受け、複雑で人間とのコンタクトを必要とするような仕事です。

さきほどのカル・ニューポートは、「ナレッジワーカーは、最低限のトレーニングで誰でもができるような表層的な仕事に不必要に時間をかけすぎる。」と言っています。

もし機械でできる仕事をしているのであれば、機械に置き換えられるのは当然です。

ニューポート氏の結論は、深いレベルでの思考をともなう仕事 – これまでの教育を生かして希少で価値の高い成果を生むことができる認知思考の活動、により多くの時間を割く必要があるという点です。

この解決方法は、直近のテクノロジーバブルで代替された仕事がどのようなものだったかを研究したレポートから見つけることができます。

この研究では、とても興味深いことが分かりました。生き残っているのは、知識や長年にわたる高度教育から得られたスキルではでありません。それは、単なる情報を伝えるのではなく、掘り下げた情報の解釈を必要とする仕事だったのです。

言い換えると、テクノロジーによって失わない職種は、特定の視点を作り、維持し、拡販し、防戦するといった特徴を持っています。こういった全ての視点には、それをサポートする情報が必要です。

ここにEvernoteのようなツールを活用する意味があります。なぜならば、自分の視点と主張を裏づけるための材料が必要だからです。

素材の実例としては、イラスト、ストーリー、統計、グラフ、分析、具体例、比喩、画像、マインドマップ、議事録、引用、書籍の要約などがあげられます。これらが毎日の収集の対象となる情報です。

このような素材は多ければ多いほど、また多様であれば多様であるほど、あなたの主張は強力になっていきます。

5. 共鳴によってアイデアを生む機会を増やす

ここまでで、「これら膨大な調査とクリエイティビティにはどのような関係があるのか」とお考えかもしれません。

まず最初に、質ではなく量の視点から初めます。アプリのデザインが1つのヒントとなります。Evernoteには、アップロードの制約があります。特に、3ページ以上のノートのパフォーマンスの低下、そしてわずか3つのレベルしかサポートしない構造(スタック、ノートブック、ノート)という制限があるのです。

その代わりに、収集する情報を注意深く選ぶ必要があります。そして、Evernoteはあなたがこれまでの人生で学んだ全てを要約する手帳と位置づけるならば、オリジナルソースではなく重要なポイントのみを記録するツールとなります。

これにより、一ヶ月の使用の上限は60MB(無料版)または10GB(プレミアム版)という制約の中でノートを自由に使うことができるわけです。

しかし、この選択条件は厳しすぎてもいけません。何を保存するかという条件を明確に規定するのではありません。

そうではなく、情報との共鳴が選択の基準となります。「自分と共鳴したか、ひらめいたか、ときめいたか」というふうにです。脳神経科学の研究では、「感情は障害ではなく、合理的な思考を整理する働きをする」としています。

この共鳴によるひらめきがあったとき、私たちの直感的/右脳/第1の脳が反応し、何か価値あるものが現れたと分析/左脳/システム2に伝達します。

事実、私自身の経験からも、反直感的に深い意味がある情報だと感じたものは、最初は不明瞭であったことが多いと感じています。なぜならば、このときの私の直感は、目の前に情報に対して何か特別なものを感じているからです。

経験則的に、このアプローチは機能していると言えます。Designing for Behavior Changeの研究がこれを実証しています。

有名なカードを使った研究では、参加者は4枚の操作されたカードを含むトランプを渡されます。勝者には賞金が与えられるのですが、何枚かは有利に、何枚かは不利になるように変更が加えられています。ゲームが始まると、参加者はすぐに何かがおかしいと「ストレス」を感じ始めます。これは、不正が明らかになる前から「直感的に何かおかしい」と潜在意識が反応するからです。

直感的なマインドはそれが明らかでなくても、何かがおかしいと感じることができます。

これは、ティム・フェリスが脆弱性についてブレネ・ブラウンをインタビューしたポッドキャストを聞いたときに、自分自身も経験したことです。

脆弱性がプロダクティビティにどのような関係があるのかは、当初は全く予想がつきませんでした。しかし、この録音を聞いたときに運転していた車を止めてこのノートを取り出しました。何か新しいつながりを100パーセント見つけられると直感したからです。

間違った最適化の弊害(諸悪の根源)

Evernoteを第2の脳として使うには、何が必要か、そしてそれを効率的に行うにはどうしたらよいかという視点が必要です。

効率性はインプットに依存します。だとすれば、次に問うべきは「最も希少な情報源とは?」となります。

言い換えれば、

何について最適化しているのか

という点です。

これは、日常の生活でいかに情報を整理するのかと意味も含めて、かなり深い質問です。

これを実例で考えてみます。

  • ストレージの容量で最適化するのであれば、最も安価なクラウドストレージを見つけてくるでしょう。しかし、最安値のサービスでは取り出すのに何日も必要とするかもしれません。

  • セキュリティについて最適化するのであれば、クラウドサービスは最初から回避した方が良いでしょう。暗号化してRAID 10のサービスが必要です。もちろん、核攻撃から守るため、分散化してリモートにある堅牢な金庫に保管するべきでしょう。

  • 包括性で最適化したいならば、ゴミ屋敷のようにあらゆるデータを保存することになります。Evernoteにはアップロードの制限があるため使い物にならないという人がこれに当たります。(この制約は実は意図的で、ユーザーのためにあるのですが。)

  • コラボレーションという意味では、ブラウザーで利用できるグーグルドライブが一番最適化に向いているでしょう。

  • シンプルさだけでいえば、DropboxやZenが使いやすいかもしれません。

これでご理解いただけたと思います。

私自身も、これらのプラットフォームのユーザーでよく使います。しかし、重要な点は、Evernoteがクリエイティブワークに必要なユニークな機能を提供してくれるということです。

そしてこれが、特にこのツールがテクノロジーとスタートアップのコミュニティでよく使われている理由です。

Evernoteを最も効率よく使うには、デジタル化されたワークプレイスで最も重要な指標であるリターン・オン・アテンション(ROA)が必要です。

リターン・オン・アテンション(ROA)

このコンセプトは、全く違った分野を調べていたときに偶然に出会いました。実際には非常に関連性の高いものだったのです。それは、

何が1つのノートに価値をもたらすのか?ノートの価値とは何なのか?

考えてみると、どのような情報管理の手法も、この質問に答えることなく価値を生むことはできません。これが反映されていないシステムは、情報過多で状況が悪化することになります。

もしラベル付けやリンク付けが価値を高めると考えるのであれば、より多くのラベルを貼り付けることになります。

しかしこのアプローチは、根本的な自己矛盾に陥ることになります。

タグ、ラベル、カテゴリー、グループ化、クロスレファレンス、その他にも方法があるかもしれません。どのような方法であれ、このアプローチから情報のつながりを見つけようとしても、枠組みを強くするだけです。

例えば、以前の私の認知に関するリサーチペーパーは、以下のようにタグ付けされていました。

複雑性、人工頭脳、意思決定、GTD、情報管理、情報オーバーロード、ナレッジワーク、脳神経科学、ノート、最適化、優先順位、問題解決、生産性、プロジェクトマネジメント

一見して、これらのタグは非常に良くノートの属性をつかんでいるように感じます。しかし、すでに知っている枠組みにどうはめ込もうとも、新しい発見は出てきません。想定外のつながりを探すには「逆効果」なのです。

こういったタグは、その定義により、情報を既知のフレームワークに閉じ込めます。クリエイティビティの定義を思い出してください。

関係性が一見してないようなところに、新しい関係を発見する

多くのタグでノートをクロスレファレンスしようとする試みは、既存のアプローチにロックインするということです。必要なときに必要な情報を取り出すことができるという間違った認識を与えます。

この「間違った箱」に入れることによる、「必要な情報が必要なときに見つからない」機会損失のコストは大きすぎます。

また、この正反対もうまくいきません。全く何ら構造も持たない、ノートをランダムに検索のみに頼ることにもリスクがあります。

この2つの中間に答えがあるはずです。

私の結論は、「人間の脳の深層でのクリエイティブワーク」に代わるものはないということでした。そしてそれは、「脳の直感」によってのみ探すことができる、ということでした。

いかなるシステムもタグのような「ハードリンク」で解決できないとすれば、残された道は臨機応変に「ソフトリンク」のアプローチを取ることです。複雑な「ハードリンク」を維持するには大変な管理が必要となります。この「ソフトリンク」であれば、消費されるアテンションは最小限で可能です。

次のプロジェクト指向の環境でナレッジ管理と学習に関する研究では、ソフトシステムはハードシステムよりも優れていることが分かります。

複数の相反するフレームワークが共存するシステムにおいて、

また、

動機、視点、相互作用を理解する

には、ソフトシステムが理想的である。

これこそが、クリエイティビティであり「創造性の仕組み」と言えるのです。

情報負荷の取り込みと解放

次に脳がアイデアを比較するときの障害とはなにかが問題となります。

それは、自分の脳に情報アップロードするときのプロセスと言えます。

最初に情報をシステムに取り込むときには、非常に多くの時間と労力を必要とします。なぜならば、インプットする情報量100パーセントのうち、わずか5パーセントから(最大でも)10パーセントしか実際には価値を生まないからです。

さらに問題は、思考の過程を保存するシステムがないために、一度問題から離れれば短期メモリーから解放され情報が消えてしまう点です。

これは、複雑なプロジェクトからいったん離れ、時間をおいてから、もう一度戻ろうとしたときに明らかになります。RAMから関連した情報が失われてしまったために、情報をもう一度取り込み、「もとどおりの」状態に戻すためには長い時間が必要となるのです。

これとは逆に、自分のプロジェクトに数時間の集中作業をではどう感じるでしょうか。この状態では、プロジェクトに必要な全てのアイデアが集まっている最適の状態です。

しかし、この状態にするために、どれほどの準備が必要だったかを考えてみてください。長年の教育とその後のトレーニング、仕事の現場や人生での経験、ストレス管理、栄養補給、エキササイズ、睡眠で体調をベストの状態にするなど、膨大な時間と労力が前提です。やつまり、仕事をする最適の状態にするためには、一定の「管理費用」が必要なのです。

これを短時間の深層レベルの思考から成果を求められるタスクに割り当てれば、いかに高いコストが必要だったかが理解できます。

私はこれまで、自分が使った時間を非常に正確にタスクごとに測定してきました。その結果、本当に集中できる時間は、週に最大でも15時間であることが分かりました。

前述のカル・ニューポートに戻ると、「歴史的な観点から言うと、熟練した労働者に比較して、ナレッジワーカーは、システム的改善のカルチャーに欠けている。」と言っています。

ナレッジワーカーは長期間かけて築き上げた重要な資産であるにもかかわらず、ナレッジベースを管理するシステムを持っていません。これは通常の経営的視点からは許されることではありません。毎回毎回、貴重な資産である時間を使ってゼロベースから準備をしなければならないという状況は、通常の生産現場ではありえないのです。

では、一体どうすれば限りある資源を、有効かつ知的に管理するにはどうしたらよいのでしょう?それは、測定によってのみ可能です。

この気づきが、一つの価値をどう判断するのかという問いに対する答えとなりました。つまり、

ノートの価値は、それにかけたアテンションによって決まる。

アテンションが通貨として扱われる経済においては、ノートの価値は、それに対して投入されたアテンションの量で量るべきです。なぜならば、物理的な製品の原価は、製造工程に投入されたコストによって測定されるからです。

これにより、Evernoteの全く新しい目的が出現します。

それは、

特定のノートにどれだけのアテンションが投入されたかを追跡するシステム

であることです。

私の結論としては、Evernoteの構造的な問題は重要ではありません。ノートの属性や置き場所を特定する必要不可欠なレベルの構造があれば十分だからです。

情報を管理するときのカギは、ツールの機能や特徴だけではありません。自分のアイデアを日々の活動に利用するために必要なものは、実はそれぞれのノートのデザインにあります。

このノートに関する実例をお見せしましょう。

  1. Amazonの商品ページで本を見つけ、あとから購入して読むために商品ページをWebクリップします。このノートの価値は1から10の評価指標では1が与えられます。

  2. 電子書籍を購入し、読書をしながらハイライトをしていきます。読み終わった段階で、Bookcisionという無料ツールを使ってハイライトをEvernoteにインポートします。このノートの価値は、1から10の評価指標の内の4となります。

  3. 数週間後にノートをレビューし、インポートした箇所をもう一度読み直しながら重要な箇所を太字にしていきます。これにより、ノートの価値は7まで高まります。

  4. この本と関連するプロジェクトが立ち上がったときには、ノートの太字とハイライトした部分のみを見直します。これらは、ノートの中でも最も重要な部分で、ハイライトは本全体の中でもわずか15箇所しかありません。

これで非常に効率的にほんの必要な箇所を見つけることができます。このときのノートの価値は1から10の評価指標の内の10となります。

こうして、このノートは潜在的な文章の武器となっていきます。ここから得られたアイデアは、必要となればいつでも取り出せる、将来的に多様なコンテキストのプロジェクトで使えるノートになったわけです。

ノートのデザイン

ここで言うノートのデザインとは、それぞれのノートのデザインと構造についてより慎重に考えることを指します。

デザイン的思考では、常に優先順位のバランスが必要となります。ノートのケースでは情報の「包括性」と「圧縮」がこれに該当します。

情報の圧縮とは、大きなアイデアを小さな断片に圧縮することです。

例えば、聖書(あるいはどのような宗教であれ)を「己の欲する所を人に施せ」と圧縮することで、膨大な情報が圧縮され多くの人に伝えられるという大きな価値が生まれます。

高度に圧縮されたアイデアには物事を理解できたという満足感があります。また、不必要な周辺の情報を排除することもできます。

包括性とは、可能な限り多くの事実を知ることです。あなたの脳の働きには、「それを証明したい」という欲求があります。それにはサポートが必要です。より多くのデータ、実例、参照情報などがこれに当たります。必要な事実を見逃してしまう心配の一方で、重要の箇所が雑多な情報で見えなくなるというリスクも共存します。

これら二つの優先順位をバランスさせるには、

  1. 段階的なステージに分けて重要な箇所を小さな断片に要約していく。(圧縮)

  2. それぞれのステージの要約をあとから必要に応じて取り出せるようにする(包括性)

短時間で現在のタスクで必要とする主要な項目を理解しながら、同時に必要と感じたときには、あとから「より深く」掘り下げることができなければなりません。

この「より深く掘り下げる」という点もステージに分けて段階的に進める必要があります。なぜならば、入り口のわずかな情報から早すぎる判断によって間違った部分を切り取るリスクを避けるためです。

ちなみに、ウェブページやPDFをハイライトし、EvernoteへエクスポートできるLiner (getliner.com)というiOS とChrome拡張機能で使えるサービスがあります。これは、読んだページのハイライトだけを処理しながらも、オリジナル資料を同時にリンクしておける素晴らしいサービスです。おすすめです。

このレイアーによる情報管理は、長文で理解に労力を必要とする情報を理解しやすいナレッジの断片にし簡単に俯瞰することを可能にしてくれます。

あるときは、高い高度からの俯瞰した視点が必要となり、最も高い頂点のみを探していくことを可能にします。またあるときは、中間層のレベルの視点でヘリコプターから濃密なストーリーやプロセスを取り出すことができます。そして最後には、パラシュートで上陸して、森の中で情報源のラビットホールを探検していくこともできます。

これは、段階的要約法(Progressive Summarization)と呼ばれる手法です。

この方法により、自分のノートを簡単に見つけられるレイヤーに分離し、そのときの必要に応じてズームイン、ズームアウトできるデジタルマップができあがります。

そして、自分が使えるレーダーとして、収集した情報を理解しながら、断片化した要素から、新たな発見、高速スキャン、そして複雑なパターンと隠れたつながりを直感的に見つけることを可能にしてくれます。

このシステムを使いやすく、また利用可能なものにするには、次のようないくつかの特徴、要素を持たなければなりません。

1. 全件適用しない

このシステムは、意図的に全てのケースに適用しません。

そのときの情報の状況と必要性によって、圧縮、要約のレベルを参照する情報源と自分の仕事との関係から柔軟に変化させるのです。

私自身の2,300あまりのノートからの集計では、

  • 第1階層: 参照元のテキストから50パーセントに圧縮
  • 第2階層: 第1階層を太字に編集し25パーセントに圧縮
  • 第3階層: ベスト・オブ・ベスト。第2階層をハイライトし20パーセントに圧縮
  • 第4階層以上: 自分自身の言葉や状況に置き換える。短い要約文やアウトラインにし5パーセントに圧縮

わずか5パーセントとなった部分が、それ以外の部分の合計よりも価値が高いと言えます。

一般的に言って、収集した全ての情報にこの方法を適用することは避けます。全ての情報は違うからで、必要に応じてあとからでも可能だからです。

2. つながりを見つける(パターン照合)

人間の脳はパターン認識においてスーパーコンピュータを凌駕する能力を持っています。脳はパターン認識に最適化されていると言えるかもしれません。であるからこそ、あるとき一瞬にして答えを見つけることができるのです。

ノート管理システムを、この脳のパターン発見能力をシマンテックトリガー(意味トリガー)を使って、言葉のつながりを見つけ出すツールとして使います。

これが最近の実例です。正確に重要な箇所を抽出することができるのが理解できます。

1つのフレーズが文章から飛び出して見えるのをお分かりいただけますか?

同じように、このあと半年後に同じノートに戻ったときにも、5秒以内にこの情報を詳しく読む必要があるかどうかがこの箇所から判断できます。このハイライトされた箇所がそのときに考えているパターンと合致すれば、残りのテキストに読む対象を広げていくのです。

もし、このノートが問題解決の鍵となるのであれば、原文へのリンクをクリックして原文に進むこともできます。この最初のプロセスがあるために、自分のアテンションの使用量を最小限にできるのです。

また、これらのレイヤーが1つのノートの中にあることには意味があります。多くの資料から「主要なポイント」のみを抽出して1つのノートにしてしまうと、多くの場合、ハイライトの中にキーワードが含まれない可能性があります。検索したキーワードがこの要約ノートの中に含まれないリスクが高すぎるのです。

有名な著名人の「生産性」に関する引用文をノートにまとめたとします。しかし、そこには「生産性」というキーワードが含まれていない可能性があります。

一方で、引用された文の周辺には同じようなメタ記述ワードが存在する可能性が高いのです。つまり、要約された効用をもちながらも、同時にドキュメント全体が「タグ」となって検索で見つかる可能性を高めてくれるのです。

3. シンプルであること

このシステムがいかにシンプルであるかに気がついたと思います。

いくつかのフォーマットのガイドラインに従うことで、「より多くの時間とアテンションを投入して共鳴する何かを探す」ことが可能になります。

デイビッド・アレン氏は、

シンプルでクリアな目的と原則が複雑で知的な行動を可能にする。逆に、複雑な基準や規則はシンプルで馬鹿げた行動を起こす。

と表現しています。

シンプルであるからこそ継続し、自分が「使えるシステム」が手に入るのです。

もしかして、このシステムをより「最適化」しようとするかもしれません。しかし、それには「複雑化」が伴います。ベストなシステムとは、自分が継続的に使えるものなのです。

4. 情報の最適化

この方法でノートを圧縮していくと興味深いことが起こり始めます。

それは、ノートが自分用になって価値を高めていくのに対し、他人にとっては価値が低くなっていくと言うことです。言い換えれば、情報が自分自身に最適化されていくということです。

これは、「ベストなポイント」へ段階的に要約をしていくプロセスでは、自分自身に「共鳴」するかどうかという非常に主観的な視点で進められるからです。このため、自分にとってより理解できるが、他人にとってはより理解できなくなっていくのです。

私は自分のEvernoteは長年にわたる自分の思考から得られた最大の事業資産だと考えています。もし誰かがそれを手に入れたとしても、その人にとっての価値は見いだすことはできないででしょう。

これは、デジタル社会のセキュリティ問題が深刻化する中、自分の価値の高いノートをシェアするという、信じられないようなことを可能にします。

私は、自分のノートを(この記事のように)ブログ記事やクライアントとのプロジェクトに公開しています。また、依頼があれば友人にもリンクをシェアしています。

これは、ほぼパーソナルなWikipadiaといえるかもしれません。自分のナレッジを公開しながら、同時にその最も高い価値を守っているからです。

5. 自己整理的なシステム

このシステムには、もう一つの隠れた特徴があります。それは、自己整理的なシステムであることです。

ここまで説明したように、Evernoteの目的は、ノートに投入されたアテンションを保存し追跡することです。

この追跡は、客観的ではなく主観的に進められなければなりません。なぜならば、私たちは一貫した手順を守ることには慣れていないためです。

タグを使った複雑なシステムでは、アテンションをどう使ったかを(段階的要約法のレイアー1、レイアー2、レイアー3のように)追跡することは不可能です。ノート自体のフォーマット表示がアテンションの使用量を表示してくれます。

例えば、アリは他のアリがあとからたどれるように行動の道筋にフェロモンを残します。同じように、段階的要約法ではテキスト自体にアテンションがたどった道筋を残します。これにより、あとから自分が戻ったときには、その後何年経過していようとも、将来の自分に対して追跡用の痕跡を残してくれます。

Evernoteでは、思考を自分の脳だけでなく、2つの脳で行うことを可能にします。

このような自己整理的なシステムを使うことができれば、2番目の脳が最初の脳ほど優秀である必要はありません。Evernoteの適応性、自立性、堅牢性という特徴を生かして、自分自身の最強パーソナル・ナレッジベースを手に入れることができるのです。

実例をいくつか

これら4つの特徴をもった実例をご紹介します。

A T-Rex on display in the Manchester University Museum.

この例では、レイヤー0(オリジナル資料)で1,682ワードであったものが、レイアー1(Linerからの転送)では65ワードに、レイアー2(太字)で11ワードに、そしてレイアー3(黄色のハイライト)では8ワードへと圧縮されていきます。この最終形は、読者には無意味かもしれません。

しかし、これは私自身には一瞬で理解できます。なぜならば、これは長年にわたって考えてきた私の12の質問の1つ「ノートの価値はどう決まるか?」に対する答えを表しているからです。そしてこれは、私自身の脳の中にあるコンテキストに完全に一致しています。

この文章を読んだとき、私は「価値」とは「記述的規範ルール(descriptive normative rules)」であり、「規範的規範ルール(prescriptive normative rules)」は「基準」であるとひらめいたのです。

ここまでご覧いただいたように、こういった発見はタグなどの客観的な体系システムでは、得ることができなかったつながりと言えます。

Evernote(第2の脳): 結論

私はプロダクティビティ(生産性)の個別コンサルタントとしてキャリアを開始しました。

当初は、生産性の「正解」は一つであると考えていました。自分自身の経験から「正しい」手法のデータベースを持ち、それを使ってコンサルをしていたのです。実際に、Evernoteを使い始めたのはこの目的からです。当時は、正解は一つという考え方で全てのクライアントにコーチングをしていました。

しかし、その後の経験から、プロダクティビティの問題は正しいアプローチかどうかではないことに気がつきました。本人自身が生産性を発揮できるという確信が持てるかどうかという意識的な問題だったのです。

自分の役割はクライアントの意識改革であると確信しました。それには、小さな成功体験から始め、クライアントの成功ストーリーによって生産性を変革できるという確信が必要でした。

そしてそこから、クライアント自身がこれまでとは違った成功ストーリーが、新しいツールや方法論を試そうというモチベーションへとつながり、クライアントが自ら進んでいけるのです。

これは最近のNPR’s Alix Spiegelによるセルフナラティブに関する研究にも共通します。この研究では、ホテルのメイドに日常の仕事の運動が予想以上に多くのカロリーを消費し、血圧の低下とダイエットに効果的であるとコントロールグループに説明しました。

すると、仕事に対する積極性が増したというのではなく、メイド自身の認識の変わることによって彼女らの体に変化が現れたというのです。

実際に行動の変化がなかったとしても、エキササイズを始めたという認識が変化を生み始めたのです。

これが、Evernoteを使うことにも当てはまります。もし自分がクリエイティブで生産性が高いと意識し始めれば、自分の体とマインドが反応し、そのように自分が変わり始めます。自分が気がついた全てのアイデアに大きな可能性があると信じることで、潜在的な能力が呼び覚まされていくのです。

クリエイティビティは繰り返しの練習で身につけることができるものです。必要なスキルや鍛錬で鍛えられ、成長していきます。そして、身についた能力はさらに加速度的に大きな価値を生むことになります。

それは、現在のナレッジワーカーにとってはぜいたく品ではありません。必要不可欠なものです。

そして最後にもう一つ、Evernoteが自己組織化で適応システムであるという特徴が可能にすることをお話しいたします。それは、アトラクターとして行動エージェントを引き寄せる効果があるという点です。

それは自分自身のノートが「知の出現」をトリガーするという不思議です。ノートが知識の境界線を越えたセレンディピティによって探究心の方向性のヒントを与えてくれるのです。それはあたかも、Evernoteがそれ自身の思考や結論を持っているかのようです。さらには、それ自体がマインドだと言っても良いかもしれません。

アトラクターの一番面白いところは、目標とインテンションと一致して機能するという点です。それはある1カ所に向かって収束していく、混乱から秩序へと向かう働きをします。

実際に、雑音によって生み出される秩序(order from noise)の原則によれば、ランダム変動(雑音)が多ければ多いほど、自己適応するとしています。

言い換えれば、目標にだけ集中するのではなく、アトラクターの出現を期待できるようなシステムを作ること。

そのようなシステムがあれば、より混乱した環境であればあるほど、ランダム性と不確実性があればあるほど、そしてオープンマインドを維持できれば、より早く当初から意識したつながりのある世界へ推進することができるのです。

セカンドブレインとは? この記事の終わりに




セカンド・ブレイン(Second Brain)は、ForteLabsを運営するティアゴ・フォーテ(Tiago Forte)が提唱する全く新しいパーソナル・ナレッジ・マネジメント(PKM)の考え方であり方法論です。

ティアゴ・フォーテは、テクノロジーコンサルタントたちから「次のディビッド・アレン」と呼ばれるパーソナル・ナレッジ・マネジメントの新しいリーダーです。

私たちは大きなテクノロジー、経済、そして人間の行動を大きく変革するパラダイムシフトの時代を生きています。そしてこのパラダイムシフトを生き抜くためのスキルとフレームワーク、そしてマインドセットを提供してくれます。

私はコロナ感染の時代を生き抜く大変なタイミングでセカンド・ブレインに出会いました。今、自分自身のみならず、日本のナレッジワーカーが一番必要としているスキルでありマインドセットだと強く感じています。

そこで、日本のナレッジワーカーだけではなく、情報を日々の仕事で扱う全ての方たちにこれを伝えていきたいと決心しました。そこで、ForteLabと掛け合って日本で情報配信しセカンド・ブレインを広めていく同意を得ました。

私、大山賢太郎は日本におけるBuilding a Second Brain(BASB )のエバンジェリストとして、この後からもこの「セカンド・ブレインと読書術」でセカンド・ブレインをより詳しく解説する記事を書き続けていきたいと思います。

また、セカンド・ブレインを深く理解し実践へと結びつけるための同好会として、「セカンドブレイン(Second Brain)と読書術」に加え、有志が集まる同好会である「セカンドブレイン(Second Brain)研究会」を始めます。

ご興味のある方は是非ともご参加ください。


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Note: This article was translated for Japanese readers who are interested in Tiago Forte’s ForeLabs and Building a Second Brain under permissions of Tiago Forte and ForteLabs.

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