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日本近海で発見された秘宝(メアメタル群)の謎: 本当に価値300兆円で日本を救えるのか?

日本近海で発見された秘宝(メアメタル群)の謎: ここ最近、日本近海に眠るレアメタル/レアアースが発見され300兆などという膨大な財産が日本を救うというニュースがメディアを騒がせています。もし本当であれば、800兆円ともいわれる日本の借金を返済する資金として有望なのではないかなどと考えてしまいます。

しかし、発見されたというニュースが多い割には、実際に収益に繋がったというお話は全く聞こえてきません。一体どうなっているのか、本好きの著者がその真相とおすすめの厳選本を探ります。

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次々と聞こえてくる日本近海の埋蔵のお宝

最近、南鳥島沖に大量に発見されたマンガン団塊が発見されたというニュースが紙面を賑わせました。(南鳥島沖に大量のレアメタル…資源大国への期待も 9月6日(火))2016年4月にも新聞各社のサイトにも掲載されていました。

南鳥島沖のマンガンノジュールの密集域の画像(2016年8月26日リリース)国立研究開発法人海洋研究開発機構

国立研究開発法人海洋研究開発機構の8月26日付プレスリリースはこちらからご覧いただけます。

南鳥島沖の排他的経済水域内の深海底に広大なマンガンノジュール密集域を発見
~三種の酸化物海底資源の包括的な成因解明のための手掛かり~

南鳥島沖に大量のレアメタルが発見された。マンガン団塊(マンガンノジュール)。スマートフォンなどのバッテリーに使われるコバルト料に換算して国内消費1600年分といいます。そして、これを含む日本の排他的経済水域(EEZ)にあるレアメタル群は総計300兆円の市場価値に相当すると積算されるというものです。

このレアメタルは、充電池やスマホなどの先端IT機器や自動車の製造過程などでは必ず必要になる資源です。ご多分にもれず、日本はその供給のほぼ全量を海外からの輸入に頼っています。世界中で存在が確認されていますが、現在、その供給の9割以上は中国に限定されていることから、様々な物議を醸しだしてきました。

尖閣諸島の中国漁船拿捕事件を発端として、2011年5月には中国が海外への供給を禁止したことで価格が100倍以上に高騰したニュースを記憶の方も多いかもしれません。これには、政府も驚き対応に追われました。

このため安倍政権でも、海洋基本計画を閣議決定(2013年)し、5年計画で2018年度をめどに商業化を目指しています。2014年12月には、日本海側で地質サンプルの採取に成功し「日本の研究は世界最先端」ともてはやされました。

一方で、こうした海底資源は莫大な採掘コストや環境に及ぼす影響など簡単には克服できない課題も多いのも事実です。予算バラマキの新しいハコモノ行政という批判さえ出てきています。そして、来年の2017年には新しい5年基本計画の準備に入っての報道なのです。

日本近海で発見された秘宝(メアメタル群)の謎: 300兆円はなぜ、未だに実現していない?

南鳥島沖のマンガンノジュールが存在する場所(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

資源の供給や今後成長産業の発展に重要な資源という位置づけなながら、300兆円という膨大な価値を持つ資源が未だに実現されていません。

例えば、Yahoo!ニュースでも取り上げられた南鳥島沖のマンガン団塊ですが、なんとすでに1970年代から調査と開発が始まっています。80年代から90年代初頭まで予算をつぎ込んで採掘の技術開発を進めましたが、結局のところ断念した経緯があります。

マンガン団塊は取り出すことに失敗した資源なのです。最近のニュースでも新しい採掘技術に何ら触れていません。ですから、なぜ今マンガン団塊なのかという疑問が湧いてきます。

実は、中国が引き起こした2010年9月のレアメタル・ショックの直後、もう一つのニュースがメディアを騒がせました。それは、レアアース泥というレアメタルの発見です。

この一部始終のストーリーを解説したのが、「太平洋のレアアース泥が日本を救う(加藤泰浩)」です。タヒチとハワイ沖の広大な海底にレアメタルを含む膨大な土壌が横たわり、次技術的にも容易に採掘できるというのです。

太平洋のレアアース泥が日本を救う(加藤泰浩)

ここで、レアメタルとレアアースというよく似た2つの言葉が交錯していますので説明が必要になります。レアメタルとは日本の経済産業省が日本にとって重要な鉱物資源を呼んだ名称で31元素を対象にしています

レアアースとは、世界共通の名称でレアメタルの内の一つの元素をさらに15の元素に分けられ、それを軽希土と重希土の2つのグループで分類することもあります。

加藤氏は、このレアアースは最先端の産業製品や軍事兵器などに利用される次世代の産業の主導権を握る鍵となる資源だといいます。彼の著作「太平洋のレアアースで伊賀日本を救う」は、純粋な研究者としての研究への情熱とストーリーがビンビンに伝わってくる内容です。

加藤氏研究グループは、レアアースの研究成果を世界に発表するべく、東日本大震災が起こった2時間前にネイチャー・ジオサイエンスに投稿開始しました。正しく、大震災で揺れる中、投稿を完了したのです。そしてその後、追加の分析と現行の修正の後、9ヶ月をかけて5月19日に受理されました。

これ以前に、一度は本誌ネイチャー本誌に投稿して却下されていましたが、中国の戦略的なレアメタル・ショックの直後ということもあり、日本のみならず、世界各国のメディアでも大きく取り上げられたのです。特に、日本の各メディアの対応やニュースキャスターの余計なひとことなど、思わず笑ってしまいます。

このレアアース泥の発見は山口大学と東京大学で研究を重ねて、発見まで至ったストーリー展開も、実際の大学教授や若い研究者の顔が浮かんでくるようです。

また山口大学と東京大学での予算獲得や研究生などの活躍の経緯には引きこまれます。アメリカのテキサス州でテキサスA&M大学まで出向いて、研究材料としての海底土層のサンプルを2回にわたって採取に行った体験談は、研究者ならではのストーリーが展開してワクワクしてきます。

加藤教授によれば、マンガン団塊はコスト的には採掘がコストが高く付くことから開発には至っていないといいます。しかし、その下にはレアアース泥と呼ばれるレアアースを多く含む広大な地層が広がっている可能性が高いと言います。

教授は具体的にこれを「流体どりっじ方式」というコスト的にも効果的な方法で船の上からパイプで吸い上げる方法を提案しています。この方法であれば環境にも問題なく、掘り出した泥の処分も埋め立てに使って採掘機地や港の建設などにも使えるとのことです。

また、そのコスト計算もしっかりしています。一隻の採掘専用船で1日に10,000トンのレアアース泥を採掘することがかのうで、そこから年間に700億円の収入が見込まれ、収支としてもIRRが11.8%と推計してます。

しかしながら、その後のレアアースの価格推移から見て経済性に疑問が出てきたのも事実です。それは、この収入の根拠が2012年4月時点のレアアースの価格にもとづいているからです。

現在のレアアースの価格は、レアメタル・ショック時の急減し、計算の根拠となったときから見ても数分の一から数十分の一まで下落しています。であれば、2012年時点で前提となったレアアースの価格から推計したIRRがプラスとなるとは考えられないからです。

国産海底資源 バブルの内幕―週刊東洋経済eビジネス新書No.72

※本書は、東洋経済新報社刊『週刊東洋経済』2014年6月21日号より抜粋、加筆修正のうえ制作したものです。

メンタハイドレート、海底熱水鉱床、マンガン団塊などの国産海底資源開発の矛盾点を鋭く指摘しているのが週刊東洋経済の記事を電子書籍化した1冊「国産海底資源 バブルの内幕」です。

経産省がこれを推し進めるのは商業化ではなく、予算と天下り先を増やすハコモノ行政ではないか。2014年には140億円の予算。資源エネルギー庁と民間の業者は予算獲得。産官学の「海底資源ムラ」構造。

マンガン団塊は過去に失敗したプロジェクト。70年代から90年代までの採掘ブームで採掘の開発を継続したが結局、産出国からの供給増加や価格低迷などで開発は中断された。

結局のところ、日本は「海洋立国」と「資源の時給」の2つの錦で官民の箱物行政と癒着が進む歴史があることを指摘している。

この東洋経済の記事は2014年6月のものですが、2012年に話題となったレアアース泥については全く触れられていません。

南鳥島レアアース開発は30年かけても難しい

レアアース泥の開発についてピンポイントで議論しているのが東洋経済ONLINEの中村繁夫氏の記事です。加藤教授の考え方に真っ向から異論を唱えています。

中村 繁夫 :アドバンストマテリアルジャパン代表取締役社長

南鳥島レアアース開発は30年かけても難しい 「夢の海底資源」報道に覚える違和感
東洋経済ONLINE 2013年03月29日

中村繁夫氏は、もともと、レアアースは産業のビタミン剤的要素を持った資源で、世界の需要が12万トンという少ない需給しか無い資源だといいます。また、世界中にはこれを遥かに上回る潜在的な供給量が存在するため、わざわざ時間と費用をかけて開発する意味は無いというのです。

彼の35年以上のレアメタル商社でのトレーダーとしての経験によれば、現在のところ、もっとも重要な重希土の日本への供給が中国にほぼ依存していることから問題が起こったといいます。逆に、中国の重希土の輸出の9割は日本です。

これは逆に考えれば、中国も日本も、良好な関係維持に努めればWIN-WINとなり、問題は解決は十分に解決可能であるというものです。

またレアアース開発に関しては、これまでのマンガン団塊のコスト割れの歴史の経緯から考えても、また今後の需給のバランスから考えても、コストに見合う開発は見込み薄であるといいます。ですから、南鳥島沖のレアアース開発は30年かけても難しいというのです。

また、中国によるメアメタル・ショック直後には次のようにインタビューに答えています。

レアアースの第一人者、中村繁夫が語る未来 急変するレアアース市場 中国への依存度は激減へ 東洋経済ONLINE 2012年03月27日

ここでは、中村氏は中国以外の購入先を増やしていくことを提言していました。

その後、実際にどうなったかというと、2015年現在、レアアースの供給は中国の依存度が33%まで大幅に減り、ベトナムからの輸入が中国とほぼ同程度の32%をカバーするまでになり、中国への依存度は格段に減りました。

そして、レアアースの価格もレアメタル・ショック以前の価格に戻っています。(クリックして拡大できます)

レアアース単価(2007 – 2015)JOGMEC レアアースの最新動向 平成27年8月28日(金)より

現在の状況は、JOGMECの「レアアースの最新動向 平成27年8月28日(金)」に詳しいのでそちらをご覧ください。

レアアースの最新動向 レアアースとは – 金属資源情報 – JOGMEC

では、なぜいまさら南鳥島沖のマンガン団塊の記事が騒がれる?

ここまで見てくると、いまさら何故、南鳥島沖のマンガン団塊の写真と記事が大きく取り上げられるのでしょう?

不思議に思うのは私だけでしょうか。

冒頭にも書きましたが、2017年に海洋基本計画の次期5カ年計画を策定する直前にあたるからと言うのでしょうか。

そして、それをあたかも「初めて聞きました」というように取り上げるメディアは何を考えているのでしょうか。

東洋経済の記事が指摘するように、「政策ありき」で「ハコモノ」行政をそのまま継続させるためなのではないかと勘ぐりたくもなります。

日本の資源自給に向けた政策も理解できます。日本が本当に最先端の産業に核となる資源を手に入れ、本当に数百兆円の価値があるのなら画期的なことです。

日本近海に膨大なお宝となる海底資源が眠っていると主張する著作も少なからず見受けられます。もし本当にそうであれば、「ハコモノ」に湯水のように税金を注ぎこむ前に、その根拠を説明していただきたいと思うのです。

 

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