カテゴリー: AI時代の読書術

電子図書館: あなたの街にも無料で借り放題の電子図書館がやってくる。でも、いつ?

電子図書館: あなたは、電子書籍が無料で借り放題のサービスがあったら、今すぐ使いたいと思いませんか?そんな、本の虫にとって夢の様なサービスがもうすぐやって来ます。電子図書館がそれです。今後5年間で、日本の図書館の4つに1つが電子書籍無料化されようとしています。

でも、それがあなたが住む街にいつやってくるのかは分かりません。一体いつになるのか、それはどんなものか、この記事が探っていきます。

電子書籍で本を探すとき

最近、私たちが電子書籍で本を探すとき、特に価格に敏感であれば、まずは次の2つのリストから探します。

  • 無料Kindle本(Kindleストアの「無料」)
  • 無料や割引きキャンペーン

しかし問題は、この中から「本当に自分が探している読みたい本がなかなか見つかららない」という点です。(読みたいが有料の本が複数ある場合でも、まずは価格に目が行き判断に影響するものです。)

そのような中、無料で借り放題のサービスが飛び込んできました。これについては、しばらく前に書きました。

楽天が電子図書館事業に進出! 電子書籍は無料? OverDrive社買収と一般読者の関係

では、現在のところはどうなっているのか。その後の実際の動向を探ってみました。

少々前の先進国の事例ですが、電子図書館普及率はアメリカが89%(2013年)、オーストラリアが97%(2014年)であるのに対して、日本はわずか0.6%(2014年)でしかありません。

筑波大学・池内有為さん作成資料の一部

その後、これまでの増加の状況はとうなっているのでしょう?棒グラフにまとめてみました。

「電子書籍の貸し出しを行う“電子図書館”」にその後の情報を追加

確かに、急速に増えていることが分かります。しかし、もともとの数が少ないので、これでも現在の日本の普及率は1.5%でしかありません。これでは永遠と時間がかかりそうな気がしてきます。

なぜ、これまで電子図書館は増えなかったのか

なぜ、日本に電子図書館が増えないのか調べてみると、こんな記事を見つけました。

「図書館向け「電子書籍」がなかなか増えない理由」

この記事によると、日本にこれまでに電子図書館が増えなかったのは次のような理由のためです。

  • 電子書籍が一般的ではなく、そもそもニーズがなかった
  • システム導入と運用のコストが巨額
  • コンテンツ不足(電子書籍自体が少なかった)
  • 図書館職員のIT知識不足

しかし、前回の記事でも紹介したOverDriveの前後で事情は一変してきているようです。また、電子書籍や電子図書館を取り巻く環境は、過去数年ほどで大きな変貌を遂げています。

  1. 電子図書館自体もクラウドサービスとして提供されるようになった
  2. 電子書籍が一般的になってきた
  3. 利用者の認知度が高まりつつある

そして、図書館側もコンテンツを提供するインフラ提供者や運営側にも十分に機が熟してきたのです。いったい今、この無料で借り放題のサービスはどのように進んでいるのでしょう。

電子図書館市場でAmazonは何をしている?

詳しいお話に入る前に、一つ、抑えておきたい点があります。それは、電子書籍の巨人Amazonの動向です。

kindle7不思議: それは誰も知らないAmazonとKindleの謎?今、あえてその裏側に迫ります。」では触れませんでしたが、Amazonの不思議にもう一つ食えるべき点として、「Amazonは電子図書館市場に参加していない」という点です。実は、当初は検討したようですが、途中で断念したようです。

2015年5月に楽天はOverDriveを約500億円で買収し完全子会社化しましたが、Amazonはそれよりもずっと前にOverDriveを買収できたはずです。でもしませんでした。

Amazonはその代わりに、学校、企業やその他の団体には電子書籍コンテンツやドキュメントを管理配信するネットワークインフラを提供しています。電子書籍インフラがWhispercastです。これは、学校や企業とKindleストアの電子書籍とドキュメント管理のインフラを繋ぐプラットフォームです。

全米PTA団体(National PTA Organization)などがAmazonと協力して学校や児童の課外活動向けにサービスを提供しているのがその一例です。(National PTA and Amazon Team Up to Support Family Reading

Whispercastの詳細についてはこちらでご覧いただけます。

電子図書館: 無料で借り放題のサービス 日本の電子図書館はどうなってるの?

では、一体日本の現在の状況はどうなっているのでしょう?この点については、朝日デジタルの林智之さんの次の記事が詳しいです。

「始まるか、電子図書館「仁義なき戦い」–新展開を迎えた日本の電子書籍」2015/04/17 林智彦(朝日新聞社デジタル本部)

これは図書館、出版社、クラウドサービスを提供するIT企業の視点で書かれています。

この記事では、サービスのユーザーである読者の視点から日本の電子図書館の状況を探っていきたいと思います。

日本の電子図書館にサービスを提供する3つの事業者とは?

この大きな世界市場の巨人が前回の記事「楽天が電子図書館事業に進出! 電子書籍は無料? OverDrive社買収と一般読者の関係」で紹介したOverDriveです。

その後一年半、どのような進展があったのでしょうか。

以下は、現在の市場の勢力図です。

日本の電子図書館リスト – 2016年7月現在「電子書籍情報まとめノート」から作成(クリックして拡大できます)

実際に日本の電子図書館サービスは、次の3つの事業者に絞られてきました。

  • DNP-図書館流通センター-丸善連合のTRC-DL
  • KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が設立した日本電子図書館サービスのLibrariE
  • 楽天が買収した世界最大の電子図書館サービスであるOverDrive

それでは、一つ一つ見ていきましょう。

・DNP-図書館流通センター-丸善連合のTRC-DL

大日本印刷 日本ユニシス、図書館流通センター、丸善クラウド型電子図書館サービスを刷新、図書館と生活者の利便性向上へ

2010年10月から電子図書館事業に進出した最古参です。図書館の業務委託である図書館流通センター(TRC)はが販売運用しています。2011年1月に大阪府堺市に5000タイトルで開始しました。2013年10月にシステムをクラウドサービスに更新し、2018年までの5年間で300図書館への導入する計画です。

TRC-DL-電子書籍業務システムのサービス概念図(クリックして拡大できます)

・圧倒的優位性で独創するTRC-DL勢

現在の状況としては、2010年に事業を開始したTRC-DLが80.0%(2016年7月17日現在)と圧倒的な市場シェアを誇っています。TRCはもともと図書館の業務委託の最大手です。この市場で先行しシェアを守ろうとするでしょう。

TRC-DLは2013年に更新した簡単に導入できるというクラウドサービスの特徴を活かして驚くべきスピードで導入関数を増やしています。DNPがシステム運用と電子書籍化を、TRCがシステム販売と現場業務委託を、丸善がコンテンツをと分業しています。

TRC-DLの強みは、参加しているTRCがコンピュータで紙の書籍を管理するのに必須な書誌データ「MARC(Machine Readable Cataloging=機械可読目録)」で公共図書館全体の83%のシェアがあることです。

また、496館の図書館から業務委託を受ける図書館業界のアウトソーシングトップ企業です。これは、全国3,246図書館の15%に当たります。このつながりと経験、そしてMARCとの連携という優位性を崩すのは大変そうです。

・KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が設立した日本電子図書館サービスのLibrariE

日本電子図書館サービス 事業概要

2013年7月にKADOKAWAの角川会長が構想を発表し同年10月に設立。2015年10月に最初の電子図書館となる「山中湖情報創造館」を開始しまし、2020年までの5年間で400図書館に導入する計画です。

日本電子図書館サービス – 概念図クリックして拡大できます)

・出版社連合のJDSLのLibrariEが後を追う

ここに割って入ったのがJLDSです。2013年に参入を表明してから準備を開始し、2015年からは実証実験を行うために山中湖情報創造館を運営してきました。タイトル数も2016年6月には10,000点まで増やしています。

JDSLの特徴は、KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店などの出版社と書店主導の企業だという点です。

2015年3月の鷹野凌さんのセミナーレポート「KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が設立した日本電子図書館サービスのビジネスモデル ── JEPAセミナーレポート」でそのサービスモデルがみられます。この時ですでに10社以上の出版社がコンテンツの提唱を予定していました。

LibrariEには、海外の事例などを参考にした出版社が考える料金体系が組み込まれています。コンテンツ利用料が少し高いのではないかという懸念もあるようです。2014年に「山中湖情報創造館」と「稲城市立図書館」で実証実験を行っています。

しかし、その後の進展はあまり報告されていません。システム開発と図書館事業での業務経験に初参入するため時間がかかっているようです。少し出遅れ感があります。

・楽天が買収した世界最大の電子図書館サービスであるOverDrive

OverDrive Japan

2014年5月にメディア・ドゥと業務提携で日本市場に進出を発表。2015年3月に楽天が買収し完全子会社化し。2015年7月に龍ケ崎市立電子図書館に日本市場最初のシステムとしてサービスを開始しました。

OverDrive – 電子図書館の仕組み(クリックして拡大できます)

楽天が買収した電子図書館の巨人OverDriveはがどこまで日本市場に食い込むか

日本市場に最後に参入したのが世界市場で圧倒的なシェアを誇る楽天のOverDriveです。2015年5月に楽天が買収し完全子会社化しました。この一社の買収で楽天Koboは黒字化のめどが付いたというほどの優良企業です。

世界的市場では、出版社5,000以上からの260万タイトル以上のコンテンツを世界59ヶ国34,000館(公共・学校図書館)に提供しています。

日本の図書館市場は世界的にも大きな存在で、これを電子化した時の市場規模が魅力的に映るのは間違いありません。これまでOverDriveは虎視眈々と日本進出を狙っていたことと思います。

そして2014年、ついに名古屋のメディア・ドゥという電子書籍やデジタルコンテンツの取次会社でクラウドサービスの大手アウトソーシング企業と資本提携をして参入を発表しました。(2010年当時はAmazonやAppleの電子書籍参入が「黒船襲来」と叫ばれましたが、この時のOverDriveは黒船ではなかったようです。)

日本ではメディア・ドゥと組んだおかけで、すでに72,000タイトルの日本語コンテンツを提供しています。しかし、2016年7月現在では、公立図書館で「潮来市電子図書館」と「龍ケ崎市立電子図書館」の2館だけです。

海外の巨人でも、TRC-DLがMARCという図書目録データベース市場の大部分を握っているため不利な状況です。しかし、これにはAPIでデータベースを連携させて対応すると言っています。

TRCがAPIを公開するかどうかは交渉次第なのかもしれません。しかし、ユーザー側としては、特に海外のタイトルで研究をしたい人などは、強く要望したいところです。

OverDriveの米国における成長秘話

海外で巨人となったOverDriveですが、その成長の裏側を垣間見ることで、日本の電子図書館のありかたにもヒントとなる点があります。

OverDriveは、AmazonがKindleをリリースする以前の2006年に電子図書館サービスを開始しました。クリーブランドの図書館に1,000タイトルのコンテンツで始まっています

当初、世界的な大手出版社のランダムハウスに参加をアプローチした時には「Never. Never. Never.」と罵倒されたが、1年後には「お前らとの事業が一番の成功だ」と言われたというエピソードがあります。(世界ナンバーワン電子図書館システム「OverDrive」の実力

その後、アメリカでAmazonのKindleストアなどの参入で電子書籍市場が一気に立ち上がりました。電子書籍の普及でユーザーのニーズも高まり図書館にも広まったわけです。

ここまで大きくなったのにはいくつか理由がありそうです。Amazonがついに参入しなかったこともあるかもしれません。注目すべき点は、彼らが「WIN」と呼ぶ出版社や著者にもメリットがあるシステムを導入したことです。(OverDrive、電子書籍貸出に関する有望な統計を発表

WIN」は「Want It Now」の略だそうですが、「Win Catalog」というシステムで出版社のデータベースやAmazonやKoboなどのオンラインストアと連携して、電子図書館にタイトルが登録されていない、あるいは貸出中ですぐに読めない場合には、オンラインストアで購入できるように「購入ボタン」でつなぐものです。

これによりOverDriveは、2010年に電子書籍の貸出数がほぼ3倍に達し、2011年の年初から9月までの期間で「100万人の新規ユーザー」を獲得しました。この利用者の21%がスマートフォンユーザーだったということです。

これと同時にKindle、Kobo、Readerなどの電子書籍リーダー端末でもOverDriveのコンテンツを読めるようにしました。これにより、読者の利便性が一気に高まりアメリカの電子図書館市場デファクト的な存在となりました。

「WIN」の最大の特徴は、OverDrive、出版社や著者、そして電子図書館のユーザーすべてに利益があるということです。出版社と著者は「WIN」からの書籍販売で売上増が、図書館は販売委託手数料が入ります。ユーザーにとっても、読みたい本がすぐに見つかる、必要ならばその場で買って手に入るので便利です。

日本の電子図書館はどれくらい増える?

さて、これらの3社が今後の日本の電子図書館市場のメジャープレーヤーになり、私たちが使うサービスを提供することになります。では、アメリカやオーストラリアから悲しいほど遅れている日本の電子図書館はどれくらい普及していくのでしょうか?

TRC-DLは2013年10月にその後の5年間で400館、JDLSは2015年のLibriEリリース時に400館としていました。OverDriveは特に目標となる導入案件数を公表していません。仮に同じ時期に100館に導入されたとしたら、900館となります。これは、日本の公共図書館の27.7%(900/3,246)にあたります。

この3プレーヤーの目標通りに行けば、今後数年以内に日本の図書館の4分の1は電子図書館になるということになります。しかし現時点ではまだ50館程度です。

海外の事例ではOverDriveが2006年からの10年間で34,000館(公共・学校図書館)に導入した例もあります。また、1図書館に導入するために必要な期間も、TRC-DLは3ヶ月で導入可能としています。ですから、あるときから以外に早く普及が進むのかもしれません。

これは政令都市の図書館など、高い関心を寄せている図書館から導入されていくことになりそうです。では、あなたの街の図書館が導入するのはいつでしょう?

この点については、図書館側でもここ数年かなり議論されてきたところです。( 図書館向け電子書籍貸出サービス普及への課題

それぞれの地域での状況は、地元の図書館の担当者や区市町村の役場の担当者に確認する以外はありません。しかし、図書館や担当者は市民の声には割と敏感に反応します。(そうでない場合も多いですが。)

多くの方が声を担当者に届けることで、先行して導入していくことになるのではないでしょうか。

「図書館のせいで本が売れない」を電子図書館が解決する?

日本の図書館を取り巻く環境では、避けて通れない課題があります。それは、しばらく前からある図書館が本の売上を「減らしている」「そうではない」という議論です。

「新潮45」2015年2月号 特集「『出版文化』こそ、国の根幹である」

  • 本はタダではありません!/林真理子」
  • 「図書館の“錦の御旗”が出版社を潰す/石井昻」

「文学界」2015年4月号 特集「『図書館』に異議あり!」

  • 「シンポジウム採録 公共図書館はほんとうに本の敵?」

図書館のせいで本が売れない? 売れ筋の新刊、「貸し出し猶予」は必要か

また、次のような反論の議論もあります。

「本が売れぬのは図書館のせい」というニュースを見たのでデータを確かめてみました。

林智之氏がデータを調べた結果としては、次のような視点を指摘しています。

  • 書籍の売上」と「図書館数」「個人登録者数」「個人貸出数」の相関は低い
  • 反対に、「書籍の売上」と「生産年齢人口」「資料費」の相関は高い

また、次のような相関関係もありを前提にした意見もあります。

一年間の新刊貸出猶予にあたって、図書館から出版社にお願いがあります

先ほどのOverDriveの「WIN」はこれを解決するヒントを提示しています。これは3者にとって利益となるアプローチとして大きな可能性を秘めていると考えられるからです。

電子図書館が調達する本のコストの計算方法を1冊の本の買い切りから利用の頻度に応じたものに変えるのです。

例えば、本を貸し出す際に支払うが貸出に応じて利用料が支払われるモデルであれば、人気作家の書籍は借りられれば借りられるだけ多くの利用料が支払われます。一方で貸出の少ない高額な学術書などは、一冊分の定価全額を支払う必要がなくなります

もちろん、単純なお話ではないかもしれませんが、バランスの取れた方法があるはずです。今後、利用者と利用頻度が増えていけば、コスト低減と利益増加の方策が見えてくるのに違いありません。

また、OverDriveのモデルでは「今すぐ購入」ボタンからの購入に対して販売手数利用が図書館に支払われます。これは日本の公共図書館では難しいかもしれません。

しかし、電子図書館システム手数料と相殺する、あるいは図書館のプログラムの補填費用として支払われるというものありかもしれません。これにより、ユーザーはより多くのタイトルを読むことができ、またより優れたサービスを受けられることになります。

現在のところ、OverDriveも含めて日本ではどのサービスベンダーからも提供されていないようです。今後の展開に期待したいところです。

なぜ今、電子図書館なのか?

これまでの日本の電子図書館を取り巻く議論は、「日本は海外の先進国に比較して遅れている」「このままでは外資に市場を奪われてしまう」「図書館はこの流れに乗り遅れてしまう」「図書館市場のシェアを確保したい」といった供給者側の視点で語られてきました。

こういった議論の特徴は、ユーザー視点が最後にくることです。今、もう一度図書館の利用者の視点から何が必要で何が求められているのかを考えてみるべきだと思います。

そこで、利用者の視点からお話を展開していきます。

利用者にとっての電子図書館のメリット

日本で電子図書館が普及し、誰でもが自分が住む区市町村で電子図書館を利用できるようになれば、次のようなメリットを受けることができます。

  • 電子書籍を無料で本が借りられる(図書館本来の機能を電子書籍にも)
  • タイトル数やこれまでにないジャンル拡大の可能性(選択肢の拡大)
  • 図書館に行かなくても、いつでもその場で借りられる(利便性向上、時間節約)
  • 図書館の利用時間に関係なく借りられる(利便性向上、ライフスタイル向上)
  • 貸出期限に遅れない(自動的に見れなくなる、利便性向上、時間節約)
  • 一度に何冊でも(貸出限度冊数まで)借りられる(選択肢拡大)
  • 読み上げ機能や文字の拡大機能(利便性向上)
  • 身体障害者や年配層などの利便性(利便性向上)
  • 電子書籍の様々な機能などのメリットを享受できる(利便性向上)
  • もともと図書館に行かない人でも、読書の機会が増える(ライフスタイル向上、利便性向上)

そしてこれは、図書館にも次のようなメリットをもたらすことになります。

図書館にとってのメリット

  • スペースを拡大しなくても貸出可能タイトル数を増やせる(経費節減)
  • 時間外でも貸出ができる(利用者層拡大)
  • 来館者以外にもアプローチし貸し出しができる(利用者層拡大)
  • 貸出や返却管理の手間が省ける(人経費、経費節減)
  • 身体障害者や高齢の読者に便利な機能を提供(法令遵守、利用者層拡大)
  • 本が盗まれない(経費節減)
  • 本の書き込みや破損、紛失の心配がない(経費節減)
  • その他のコスト削減の可能性がある
    (電子書籍に置き換わる、紙の本の管理費用削減、図書館間の配送費節減)

これを可能にするサービスを提供するのが、電子図書館サービスのベンダー各社の役割だといえます。

図書館利用者の選択肢から考える

では、電子書籍のユーザーではない方も含めた、一般的な図書館利用者の観点からはどうでしょうか。

これまで、図書館の利用者が本を選ぶ時には、その場所について、いくつかの選択肢から選んでいます。これを費用と時間的コストの優先順位で並べれば次のようになります。

  1. 図書館まで出向いて本を選ぶ、読む、貸し出す(無料だが移動の時間と費用が必要)
  2. 書店まで行って立ち読みをしてから購入する(街の本屋さんであれば立ち寄る)
  3. オンライン書店で購入し、配送された本を読む(移動の時間と費用が不要だが配送を待つ時間が必要)
  4. 電子書籍をその場で24時間すぐに購入して読む(移動も配送も不要、割安だが紙の本ではない)

電子図書館が加わることにより、これに次の選択肢が増えることになります。

  • その場で電子図書館から電子書籍を借りて読む(無料で移動の時間も費用も不要、紙の本ではない)

図書館利用者は、図書館に行って紙の本を借りるか、図書館に行かずにすぐにその場で電子書籍を借りるかの選択肢ができます。

もちろん、「紙の本でなければ本でない」や「電子書籍って何?」あるいは「そんなもの読みたくもない」という方が少なからずいらっしゃるのも事実です。

しかしもう一方では、「図書館に行く時間がない」「電子書籍を読みたい」「今すぐ電子書籍で調べたい」という人が急速に増えています。オンラインで本を借りられれば、これまで図書館に来なかった層にも利用してもらえます。

また図書館へはいけない高齢者や目が不自由な障害者にも、文字の大きさが変更でき、読み上げ機能もある電子書籍の選択肢はとても重要だと思うのです。

しかし、本当に電子図書館は「作れば売れる」サービスになるのか?

そうは言っても、電子図書館は「作ればバカ売れ」のヒット商品となることが保証されているのでしょうか?

電子書籍のユーザーが電子図書館を利用するかしないかは、電子書籍ストアを選択するときの理由が参考になります。

2016年電子書籍に関する利用実態調査 – MMD研究所(クリックして拡大できます)

この調査から、電子書籍のユーザーは次の順で電子書籍ストアを選んでいるのが分かります。

  • 選択肢(タイトル数や豊富なジャンル)
  • 価格に敏感(無料という最大の武器)
  • 利便性
  • 安心感

現在の課題は、選べるタイトル数がおどろくほど少ない点

この中では、電子図書館は無料で貸し出すという機能は電子書籍ユーザーにはピッタリの魅力的な要素です。しかし、選択肢という点で、現在のタイトル数では全く魅力がないと言わざるをえません。

Amazonが日本にKindleストアを開始した時には、そのタイトル数は約90,000タイトルでした。しかし、すぐにその数の少なさにクレームが続出しました。

現実問題として、電子図書館のプロバイダーのタイトル数は、わずか10,000から1万数千万程度しかありません。(OverDriveは例外で70,000程度)Kindleストアの40万以上のリストから選ぶことに慣れた利用者にとっては、ほとんど魅力がないと言えます。

電子書籍のオンラインストアが競合になる?

さらに、電子書籍という観点ではオンラインストアのサービスの競合もあります。例えば、Kindleストアの無料電子書籍(特に青空文庫などの文学・小説など)カテゴリーの47,000タイトル以上の無料Kindle本から選ぶことができます。また、常に出版社や著者による無料キャンペーンも行われています。

これに加えて、最近の報道ではAmazonが日本で読み放題サービスを開始するというビッグュースが流れました。この点については、「Kindle Unlimited 徹底分析: Kindle愛読家が知っておくべき12の重要な事実」で解説しました。

これは海外10カ国のKindleストアですでに開始しているKindleUnlimitedを2016年8月に日本のKindleストアでもリリースするものです。これは月額980円の読み放題サービスで、当初日本語Kindle本が72,000タイトル、Kindle洋書100万タイトル以上で開始されるということです。

この「KindleUnlimitedは電子図書館の競合になりえるのか」というのは面白い議論です。これは電子図書館と近いサービスで、安い価格でより多くのタイトルから選べるのであれば、選択肢の少ない、予約しなければすぐに読めない電子図書館はサービスとして選択されないかもしれないからです。

電子図書館に必要なタイトル数は?

また、選択肢という意味では、世界のKindleストアを見回せば米国Amazonでは900万タイトル、英国アマゾンでは1,000万タイトル以上から選ぶことができます。日本アマゾンでは日本語タイトルが44万、Kindle洋書が400万タイトルです。

一方で、世界最大の電子図書館サービスプロバイダーのOverDriveでも260万タイトルでしかありません。

また、海外の事例では400万タイトルと言われる「KindleUnlimited」のリストには世界の4大出版社などの参加がないため読みたい本がない。という不満があります。そして「Kindleオーナーライブラリー」も同様です。

つまり、これは図書館には利用者が欲しい選ばれた本を並べることで差別化ができるということす。この選書の専門性に図書館としての価値があります。KindleUnlimitedや無料Kindle本リストにない本のリストを揃えれば、非常に魅力的な電子図書館が現れます

日本図書館協会の日本の図書館統計によれば、日本の区市町村の公共図書館の平均的な蔵書は335,494冊、うち開架図書冊数は188,450冊です。何冊も購入する複本もあるので、これを考慮しておおよそ100,000タタイトルだとすると、この数を電子書籍で揃えれば図書館の蔵書に匹敵する電子図書館が作れると言えるのかもしれません。

最近は、Kindle以外にもeBookJapanやBookLiveなどのオンライン電子書籍ストアの品揃えも20万から30万タイトルまで増えてきています。すでにOverDriveでは70,000タイトル以上を配信可能にしています。

その他のシステムでも、電子図書館で貸し出し可能なタイトルは急速に増えていくこと予想されます。

図書館と電子書籍の利用者の利便性から考えると?

現在の電子図書館で採用されている電子書籍リーダーはボイジャー社のBinBと呼ばれるものです。これは、専用ソフトやアプリをインストールことなく、スマホ、タブレット、パソコンのブラウザで表示するタイプです。読み上げ機能にははAdobe社のフラッシュが必要です。

これはこれでよいのですが、すでに電子書籍市場の過半数以上を占めるKindleやKoboのユーザーには違和感があります。

KindleやKoboのユーザーであれば、便利な機能を持ち読み慣れた同じリーダーアプリや専用端末で読みたいと考えます。例えば、Kindleのハイライトやメモを読書の記録に役立てている人は急速に増えています。詳しくはこちら(Kindle ハイライト: Kindle本の上級者が使ってブッチギリの差をつけている「ハイライトとメモ」のスマート活用術とは?)をご覧ください。

WIN」システムを開発したアメリカのOverDriveの場合は、電子図書館内からKindleやKoboのストアと連携してリーダー端末から読むことも機能を使うことができます。また、電子書籍ストアの「ワンクリック購入」ボタンと連携すれば、電子図書館で借りる」か「Kindleストアなどで買って読む」かをその場で決めて行動できます。

つまり、電子書籍のユーザーがスマホ、タブレット、パソコンのどこからでも読みたいように、電子図書館のユーザーは電子図書館とKindleストアやKoboとシームレスなる利便性を求めているのです。電子書籍を利用する観点から言えば、電子図書館は本を手に入れる場所の一つでしかないからです。

しかも、OverDriveの「WIN」のモデルが可能となれば、利用者、図書館、出版社・著者全てにメリットがあります。これは今後の進展を期待したいところです。

電子書籍の利用者の選択肢の観点から電子図書館を考える

電子書籍が一般的に普及するに連れ、ユーザーはますます価格センシティブ(敏感)になってきています。全く同じ本なのであれば、より安い価格を提供するサービスを利用するからです。

また、子供の頃から利用してきた経験や地域での存在感など、圧倒的なブランド力と安心感、そして信頼があります。ですから、電子図書館は他のストアよりも有利な立場にいます。

今後、理想的なタイトル数や利便性を兼ね備えた電子図書館が登場すれば、電子書籍の利用者の選択肢の優先順位は次のようになると考えられます。

  1. 電子図書館
  2. 無料電子書籍
  3. 期間限定の無料キャンペーン
  4. 読み放題サービス(Kindle Unlimited、dマガジンなど)
  5. Kindleオーナーライブラリー
  6. 割引きキャンペーン
  7. ポイント付きKindle本
  8. 定価のKindle本(ポイント無し)

電子書籍のユーザーは、まずは電子図書館にタイトルがあるかどうかを調べます。もしすでに貸し出されているのであれば、予約待ちにするか、Kindleストアなどで購入するかを決めます

Kindleストアなどでも、無料電子書籍や期間限定の無料や割引キャンペーン中であっても、その時に読みたい本があるとは限りません。また、読み放題サービスのKindleUnlimitedも大手出版社や人気作家の作品などが無い場合が多いことが予想されています。

であれば、電子書籍のユーザーとして、電子図書館に期待するところが非常に大きいのです。

現時点で電子図書館を推進する方々に要望したい点は次の通りです。

  1. とにかく早く(自分の地元で)始めて欲しい
  2. 読みたい本を増やして欲しい
  3. 慣れたリーダーで読みたい
  4. 機能を充実させて欲しい(見つけやすさ、電子辞書、ハイライト)
  5. 借りられなければ、すぐに他のストアで買えるようにしてほしい
  6. 使いやすく信頼できるサービスにして欲しい(検索、貸出の利用、サポートなど)

今回、電子図書館に関わる方々のたくさんの記事を拝読しました。読み進む内、数多くの方々が図書館や出版の将来について真剣に考え努力されている姿が目に浮かぶようでした。

この後のみなさまの活躍により、日本の図書館が電子図書館機能を充実させ、1日も早く世界レベルの読書環境が誰でも手に届くようになることを祈念しております。ご健闘ありがとうございます。

 

参考資料:
電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2015
月刊ほん創刊号
「電子書籍はほんの形を変える、読書を変える」角川歴彦、夢枕獏、山崎博樹

メディアドゥ、電子図書館プラットフォーム世界最大手 米国OverDrive, Inc.との戦略的業務提携に関するお知らせ2014年5月13日
日本電子図書館サービス 事業概要
クラウド型電子図書館サービスを刷新、図書館と生活者の利便性向上へ
日本電子図書館サービス関係者が語る、図書館、出版社、著作者、利用者の全てが喜ぶ仕組みづくり ── 図書館総合展2013フォーラムリポート
2015年の電子図書館トレンド
電子書籍情報まとめノート

 

あなたは、この記事を読んでどのような感想をお持ちですか?あなたにとって、Kindleとはどんな存在ですか?

ぜひ、あなたのコメントを下のコメント欄からお知らせください。

 

 

シェア

コメントを表示

  • こんにちは。

    本を処分するのが面倒なので図書館を利用するタイプの図書館員(アルバイト)です。

    電子図書館、いいですよね。
    私の地域の図書館には電子図書館に対応していないので、ふるさと納税を利用して奈良県生駒市の電子図書館を利用していました。

    ただ。
    私が希望する電子図書館になるには、
    50年くらいかかるのではないか……という気がします。
    私にとって図書館の大事な機能は
    「事実確認ができる」なので、
    辞書・新聞・郷土資料・論文・学術系の本が電子図書館に蔵書されるまでは電子“図書館“ではないよなぁ、というのが本音です。
    辞書・新聞・論文関係はデータベース化が早かったので、電子図書館には組み込まれにくいかなぁと感じます。
    (おそらく企業が電子図書館で収益を見込めるようにすると、すごい高額コンテンツになるのではないかと……。)