Last Updated on 2018年11月3日 by 大山賢太郎
2016年8月、ついに日本でもKindle Unlimited読み放題サービスが開始しました。その1ヶ月前にリークされ、そこから火がついて、リリース後も引き続き大変な騒ぎになっています。
Kindle Unlimited読み放題サービス(KU)は、日本ではまだ始まったばかりのサービスです。海外のKindleストアではすでに11カ国で始まっており、ここ数年でダウンロード数や有料本の販売数を飛躍的に伸ばしているということです。
では、日本のKindle Unlimited読み放題サービスはどうなのでしょうか?
この後から詳しく分析していきます。
目次
Kindle Unlimitedは本当に月額980円の価値があるか?
そこで、Kindle Unlimited読み放題サービスは月額980円の価値が本当にあるのかどうか、4つの観点から具体的に突っ込んだ分析をしました。
これらは、「Kindle Unlimited 徹底分析: Kindle愛読家が知っておくべき12の重要な事実」でも海外の事例から特定されていたものですが、KUが始まってからの日本Amazonにおける実際の運用状況から調査しました。
Kindle Unlimited徹底分析1: Kindle Unlimitedの参加タイトル数ランキング上位20社
Kindle Unlimited読み放題サービスに参加している出版社の上位20社をAmazonのリストからランキング形式でリストアップしたのが以下の表です。
このリストから見ると、以下のような点が分かります。
- やはり大手よりも中堅出版社が中心
- 登録数が多い出版社は大手以外
- 1,000タイトル以上の出版社は12社のみ
- 出版社リストの合計は36,344タイトル
これら出版社のリストの合計(36,344)をKUの合計(140,794)と比較すると、25.8%が出版社から、それ以外はKDPなどの個人出版と推測されます。
Kindle Unlimited徹底分析2: 参加していない大手出版社は?
では、日本の大手出版社はどれくらい参加しているのでしょう?以下の表は「オリコン 2015年 書籍 年間マーケットレポート(ねたとぴ)」によるランキングです。
・参加している大手出版社のリスト(KU対象タイトル数)
- 講談社(1208)
- 小学館(622)
- 新潮社(13)
- 文藝春秋(116)
・参加していない大手出版社のリスト
- 集英社
- KADOKAWA
- 学研パブリッシング
- 宝島社
- スクエア・エニックス
- 昭文社
積極的に参加していない大手以外にも、以下のような特徴のある出版社からも参加しています。
・その他の参加出版社
- 朝日新聞社 (1862)
- PHP研究所 (1713)
- 双葉社 (1047)
- インプレス (732)
- 実業之日本社 (658)
- 東洋経済新報社 (519)
- 朝日新聞出版 (368)
- 翔泳社(356)
KUは、日本ではまだ始まったばかりです。どの出版社も2,000冊以下でじっくりと今後様子を見ながら進めていくことになるのでしょう。
Amazonのリリース時には、アマゾンジャパンの友田雄介氏(Kindle事業本部コンテンツ事業部事業本部長)が「米国の実績では、利用者の読書時間が30%増えている上、非Kindle Unlimited会員向けの単品販売での購入額も、同様に30%増となる」と述べています。(電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」、月額980円で国内提供開始)
KUは読まれたページ数によってロイヤルティが支払われます。そして、読者のKUからのダウンロードが増えれば増えるほど、売上にも繋がるという構図ができあがりました。
これにより、出版社や著者にとって無視できないばかりか、KU以外の本の売上増にも繋がる可能性を秘めています。
今後、出版社が積極的にAmazonの「読み放題サービス」を利用して前提のパイを大きくするのか、あるいは全く違う展開を選ぶのか。どのように展開していくのか楽しみになってきました。
Kindle Unlimited徹底分析3: どんなジャンルに多いのか
では、実際に選択肢のバラエティとしては、どんなジャンルの本が多いのでしょうか。Amazonのカテゴリー別のランキングを作りました。
ここからは、コミック(30,780)がダントツで多いのが分かります。これ以外にも文学・評論(20,400)、人文・思想(13,468)など、少しお硬いジャンルにタイトル数が多く集まっているのが分かります。これだけで64,648タイトルとなり、カテゴリー合計(169,011)の38.3%にもなります。
これ以外に、アダルト(18,714)が目立ちます。これは全体の11.1%にもなります。なんと、Kindle Unlimitedの1割以上はアダルトです。
これに、ビジネス・経済(8,242)、趣味・実用(7,456)、社会・政治(6,165)と続きます。その他全てのカテゴリーを合計するとカテゴリーから集計されるタイトル数は169,011です。これは、Kindle本として表示された合計の140,794と差がありますが、重複と考えられます。(2016年8月9日現在)
これはKindleストアの全体のカテゴリーと比較して、それぞれのカテゴリーで対象的な品揃えとなっているのでしょうか?
そこで、Kindle本別カテゴリー(日本語Kindle本のみ)のランキングも作ってみました。
ここから分かるようにコミック、文学・評論、アダルトなどが上位を占めるなど、おおよそ同じような品揃えとなっています。
しかも、驚くことにKindle本全体のカテゴリーの合計数が541,378ですから、日本語のKindle本の31.2%(3割強)がKindle Unlimitedの読み放題サービスの対象となっていることになります。
これは、Amazon.comの同じ比率が12.7%※であることと比較しても、非常に高いことが分かります。この理由は、日本では出版社の参加が多くあるからと考えられます。
※Amazon.comのKindleストアのカテゴリー合計から外国語カテゴリーを除外して計算:
英語Kindle本合計(カテゴリー合計−外国語カテゴリー合計=8,768,172タイトル)に対する英語Kindle Unlimited(Kindle Unlimited合計−外国語Kindle Unlimitedカテゴリー=1,113,073)の割合(%)
Kindle Unlimited徹底分析4: ベストセラーの登録は?
次に、人気のあるタイトルはKindle Unlimitedの読み放題リストに含まれているのでしょうか?
これは、以前「紙の本 vs 電子書籍の価格比較 2016: 電子書籍は紙の本よりも本当に安くなったのか?」で使った日販の「2016上半期ベストセラー」ランキングを利用してベストセラーが含まれているかどうかを検証してみます。
ここの総合ランキングからKindle Unlimitedの対象タイトルを探します。
上のベストセラーリストのオレンジ色にハイライトされたものがKindle Unlimitedの読み放題に含まれています。
総合ランキング20冊の中では、以下の2冊がKindle Unlimitedの対象です。
- 嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え(岸見一郎 古賀史健)
- 超一流の雑談力(安田正)
総合ランキング以外にも、個別のジャンルでのランキングでは、これ以外には8カテゴリートップ10づつ合計80もあるランキング枠で検証しました。
この中から、唯一「文庫本ジャンル」で以下が読み放題の対象となっています。
- 世界から猫が消えたなら(川村元気)
集計してみると、総合と個別ジャンル全100候補枠(多少の重複あり)の3冊ですので、わずか3%がKindle Unlimited読み放題に含まれたベストセラーとなります。
やはり、KUの読み放題に最近のベストセラーが含まれることは(少なくとも直近の人気本については)期待しないほうが良さそうです。
今回の調査のまとめ
- 参加出版社は大手も含まれるが、中堅の出版社が中心となっている。
- 最大手の出版社は参加していない会社のほうが多いが、特徴のある出版社が積極的である。
- ジャンルは「コミック」「文学・評論」「アダルト」「人文・思想」の順。これに実用書が続く。
- ジャンルの品揃え(ジャンルのタイトル数)はKindle本全体のものと似通っている。
- タイトル数だけて言うと、日本語Kindle本の約3割がKU読み放題の対象となっている。
- ベストラセラーはわずか数%程度しか含まれていない。
以上から、以下のような感想を持ちました。
- 現在のところ、大手出版社は少ないタイトルで始めて様子見の状態である。
- これに対して、中堅どころは積極手に的にこの機会を利用しようとしている。
- 読者にとっては、大手のベストセラーは期待薄としても、対象となっているリストからうまく選べば、読書をもう一度楽しむ時間を取り戻す絶好のチャンスになり得る。
- 最近の人気作品は期待できないが、多くのジャンルの対象リストから自分の読みたい本を選んで自由に読める機会が到来した。
- 著者にとっては、特に個人出版をしている側は、これまでにも増して大きなチャンスになる。しかし、いかに読者の選択肢となって読んでもらうかの工夫が必要になる。
結論
それでは、今回の調査結果をKindle Unlimited読み放題サービスのユーザーの観点からまとめます。
- 大手出版社の人気本狙いで参加するのはリスクが高い
今回の分析での一番の発見は、大手出版社の人気本狙いで参加するのはリスクが高いということです。むしろ、期待はずれの可能性のほうが高いでしょう。
- Kindle Unlimitedは理想的な読書ライフを手に入れる絶好の機会
しかし、本来の本好きで良い本をじっくりと沢山読みたいという目的を持った人には、昔味わった読書三昧の時間を取り戻す絶好の機会になり得ます。
なぜならば、もともと本好きで本を読みたいところに、読み放題でカバーされる部分が大きく加わったからです。そこに足りない部分があれば、無料や割引キャンペーンという選択肢から選べます。
- 自分自身の愛読書リストの幅を広げる
また、すでに紙の本よりも割安のKindle本価格となっているわけですから、本当に必要で手もとに置きたい本であれば、これまでよりも割安価格で手に入れることができます。
10冊というダウンロード制限や、返却に迷うことはありません。あとからいつでも半永久的に自分のスマホやリーダー端末から呼び出して読むことができるからです。(Kindle Unlimitedの読書リストを管理する方法については別の記事で解説します。)
これは、動画の見放題サービスにも似ています。たまの休みには、出不精をして一日中ドラマシリーズの動画三昧を(財布の中身や時間を心配しないで)気兼ねなく楽しむことができます。
しかし一方で、大切な人や家族連れで映画館に出かけるのは特別な時間で、それなりの費用がかかるのを惜しみません。
- 読み放題、無料、そして有料の組み合わせで選択肢がさらに広がる
月額課金の追加費用無しのサービスと有料のサービスの両方があって、より楽しい快適な時間が過ごせると思うのです。
Kindle Unlimitedの読み放題サービスの月額料金は、実用書1冊あるいは文庫本1冊半のコストに相当します。これ以上の本を読む人で対象タイトルがある可能性が高ければ、十分以上のコストパフォーマンスがあります。
今後、出版社や著者が積極的に読み放題を注目し、対象タイトルとして利用すること可能性が高いと考えられます。
であれば、今後の期待も含めて、「Kindle Unlimitedは月額980円の価値あり」と結論づけたいと思います。
あなたは、この記事を読んでどのような感想をお持ちですか?
ぜひ、あなたのコメントを下のコメント欄からお知らせください。
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宮本隆博 さんのコメント:
私も『買い』だと思います。
ベストセラーじゃない方が却って有難いです。
あまり見かけない『掘り出し物』に期待します。
【電子書籍の窓】管理人 さんのコメント:
宮本さん、コメントありがとうございます。
そうですね。
かなり斜め目線な方もいらっしゃるのですが、Kindle Unlimited読み放題が与えるインパクトは大きいと思います。
要は使い方次第かなと思います。
これからも、独自の視点で記事をお届けしますのでよろしくお願いします。