Last Updated on 2018年10月30日 by 大山賢太郎
電子書籍不況: なぜ、電子書籍はマンガばかりでその他は全く売れないのか? 電子書籍市場は年率20%以上の急成長を遂げ絶好調です。しかし、売れているのはマンガばかり。それ以外の本は初期費用の回収さえできないのです。
オンライン書店が個人に本を出せるようにしてから、続々インディ作家や個人で出版する著者登場しています。でも、ほとんどの本は売れずに電子書籍不況真っ只中というのが実情です。
この記事では電子書籍不況の実情を追いかけます。
目次
電子書籍市場は急成長というけれど・・・
前回、電子書籍が日本で本格的に始まって以来の流れについて、本が大好きで読書三昧をしたい本の虫にとって電子書籍はどのようなインパクトが有ったのか、アンケートした結果を報告しました。(「徹底調査: 電子書籍は本の虫の役に立っているのか?」)
結果としては、電子書籍を読むようになり、ほとんどの人が本を読む数や時間が増えたという内容でした。しかも、読み放題サービスの開始で、本を多く読む人にとっては朗報となることがわかりました。
実際に、近年の電子書籍の売上は年率20%以上の成長を見せていると言われています。(2015年度の電子書籍市場規模は前年比25.1%増の1,584億円 インプレス総合研究所 2016年7月27日)
例えば、「ブラックジャックによろしく」の著者である佐藤秀峰氏は2016年は大変に良い年であったようです。「電子書籍で2億9000万円 漫画家・佐藤秀峰さんの収支報告 2017年03月01日 07時00分更新 文● 盛田 諒(Ryo Morita)」
佐藤氏は「ブラックジャックによろしく」を全巻無料にして有名になりましたが、結局のところ他の著作を含めると電子書籍だけでも大成功した人です。この確定申告スペシャルインタビュー では、2億9000万円の売上に対して8千8百万円の利益だったとのこと。
また、電子書籍の紹介サイト「きんどう」でもマンガの紹介を中心にした展開で記録的なアフィリエイト報酬で潤っているということです。
電子書籍不況: 本当は売れていない事情とは?
この一方で「電子書籍は本当は売れていないのではないか」という意見が聞こえてきました。
バカ売れのマンガ電子書籍ですが、これには裏側のストーリーがあります。
成長をし続ける電子書籍市場ですが、データからはその販売の8割マンガの売上と言われています。(『電子書籍ビジネス調査報告書2016』インプレス総合研究所)つまり、「売れているのはマンガだけ」と言うのが現状のようです。
電子書籍の窓のサイトに参加している個人の著者とのやり取りからも、それほど電子書籍が売れているとは聞こえてきません。彼らはマンガ以外の文章を中心としたインディ作家と呼ばれる方たちです。
その多くが、カバーデザインや校正、それに仲介手数料などの個人出版の費用の回収さえおぼつかないとのことです。
電子書籍市場はまだまだ小さな規模で、特に文字系の書籍は「無視されるほどの規模しかない」と言われる所以です。(「成長しているのになぜ? 電子出版が軽視される理由」ITMedia ビジネスONLINE 2017年01月18日 11時00分 更新)
前回のアンケートでは「本の虫」にはインパクトが有りでしたが、これはその全く逆の現象です。大多数の作家にとっては「電子書籍不況」と言えそうです。
一体どうしてなのでしょうか?
電子書籍が売れない理由
これまでも、電子書籍については様々な議論が重ねられてきました。また、電子書籍の窓サイトにも読者から様々な声を頂いています。
実際には、文字中心の実用書やノウハウに限らず、文学小説やラノベなどのインディ作家作品はほとんど売れていません。聞こえるのは、「どうしたらもっと売れるのか」だけです。
いわゆる紙の本と比較されるような書籍と呼ばれる分野では、いまだに「電子書籍不況」が続いています。その理由は何でしょう。
これまでの議論をまとめると、次の点に絞られてきそうです。
電子書籍には魅力がない。
マンガは画像を画面に表示するのに対して、文字を中心とした本は別物です。出版社を経由しない電子書籍には信頼が置けない。
出版社のプロの目と編集を経ていない文章は面白くない。内容がない。質が低く読む価値がないという意見が少なからず聞かれます。
長く業界にいる方からは「なぜ自費出版するのか」という意見さえ聞かれます。
読書家の電子書籍に対するリテラシーが低い
著名な読書家からは、紙の本こそが本来の本であり電子書籍が増えるのは嘆かわしいことだという意見が多くあります。
例えば、「電子書籍の読書術: あなたの読書が驚くほど加速する厳選7冊とは?」で解説した「大人の読書術」などで有名な齋藤孝氏は、独自の三色ボールペンの読書術を展開していますが、これは紙の本のみ可能であり、電子書籍では無意味だといっています。
また、「読書の技法」の著者である佐藤優氏はまだ現時点では本格的な利用に耐えないとして批判的です。「忘れない読書術」の樺沢氏はより電子書籍寄りですが、電子書籍の読書の具体的方法については多くは触れていません。
このように、正統派の読書は「紙の本」という認識が少なからず存在します。電子書籍は彼らの読書の対象にさえなっていないのです。
街の書店や出版社にとっては電子書籍は無視される存在
インターネットで無料の記事や雑多な情報が無制限で読めるようになり、出版業界は二十年以上も不況の経営が続いています。
あのジブリを産んだ徳間書店までもがカルチャーコンビニエンスクラブに身売りというお話さえ聞こえてきました。(TSUTAYA運営会社CCC、徳間書店の子会社化検討2017年3月14日16時49分 朝日新聞デジタル)
また、街の書店は次々と姿を消しています。(2016年(1–12月)「書店」の倒産状況 東京商工リサーチ 2017.03.08)
電子書籍は出版業界取って厄介な存在であり、街の書店を残すために紙の本を買うべきだという考え方が根強くあります。
これは、「電子書籍の購入は作者の応援にはならない(だから紙媒体で購入してほしい)」(「電子書籍の購入は作家の応援にならない」は本当? 現役編集者に聞いた)といった出版社の編集者の意見にも反映されています。
本を読まなくなった
昨今のニュースにあるように、スマホでゲームやSNSに時間が奪われています。限られた忙しい日常では、紙の本の時間がますます奪われています。
もともと本を読まなくなったのだから、電子書籍が読まれるはずがないという論点です。
紙の本のほうが読みやすい。
これは正式に紙の本として出版され、洗練された本の形になっていないものは読みづらいというもの。電子書籍は、デバイスや画面の大きさによって読みやすさが格段に低下します。
長年読み慣れた、目に優しい、手にとることのできる紙の本でなければ伝わってこないということです。
電子書籍は読みづらい
逆からの論点になりますが、パソコン画面、スマホやタブレット端末の画面は読書には向いていない。長時間読むには苦痛を伴い読めたものではないというものです。
記憶に残らない
そもそも画面に写った文字は流し読みをするだけで、読書には全く向いていない。しっかりと勉強し、記憶に残る読書は紙の本以外にない。
その具体的事例として、受験勉強に電子書籍を使う学生は皆無です。
海外の研究事例でも、電子書籍の読書は記憶に残らないという報告もあります。(電子書籍より紙の本で読んだほうが、内容をよく記憶できる:研究結果)
一般の読者に知られていない。理解されていない。
そもそも一般の読者に電子書籍自体が知られていません。紙の本以外には、本という存在自体が無いのです。
スマホで読むコンテンツは、2ちゃんねるやSNSの雑談のようなものと捉えられています。ですから、スマホでマンガは読むことに違和感がなくても、本はありえないのです。
また、少なからずの人が電子書籍を読むには電子書籍リーダーが必要と考えています。なぜ何万円もする専用端末まで購入して本を読むのかと考えます。近くの書店でポケットマネーでいつものように本が手に入るからです。
電子書籍不況: まとめ
スマホが一人に一台が当然となり、誰もが簡単お手軽で無料で楽しめるエンタメ系のゲームやSNSに熱中するようになりました。
これに、無料やお試しで楽しめる「マンガ」がスマホの画面に続々と登場しています。
ですから「マンガ」が馬鹿売れしても不思議ではありません。
この一方で、最近の電子書籍の登場で誰でもが自分が書いた本を「自己出版」できるようになりました。しかし、一般読者の意識は未だ変わらず、紙の本の読書が一般的です。
結果的に、インディ作家や個人の著者が真剣に悩み抜いて、長い時間をかけて書き上げ、一般読者の厳しいレビューの前に勇気を持ってデビューした電子書籍は引き続き不況の真っ只中です。
ですから、出版にかかった時間や努力はおろか、その初期費用さえ回収できないのです。
この状況が変わるのには、もう少し時間がかかるのかもしれません。
2017年3月22日 一部訂正
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新刊のリリース予定のお知らせ: 電子書籍で読書三昧: マンガも雑誌も読み放題!が3月27日にリリースされます。電子書籍で最高の読書を楽しむためのノウハウが満載です。ここから登録して、最新情報を入手してください
kaz さんのコメント:
今は過渡期で、すでに先行者利益で「おいしい思い」をしてきた出版社が抵抗しているのだと思います。紙書籍にこだわる理論を展開する著名な方達も、大手出版あっての権威ですから電子書籍に否定的なのは、あたりまえだと思っています。
しかし、海外で起こっていることは必ず何年か遅れで日本にも入ってくるわけで。
その意味では、海外で「無名のベストセラー作家」が生まれている例を見てもわかるとおり、必ずその流れは日本にもやってくると思います。やってこないわけがない!
現在、漫画だけが売れている。
という現状はわかります。特に、日本は漫画文化が発達しており、優れた作品が多いですからね。しかし、必ずそれ以外の電子書籍も認知されてくるでしょう。
書籍などという、ある意味「ふんぞり返った」ものとしてではなく、「ブログ感覚でひまつぶしに電子書籍を読む」文化が根ざしてくると思います。気軽にダウンロードして、気軽に読む。「書籍をめくる」よりも軽やかに文字を楽しむ文化です。
その前触れとして、今は「漫画が好きな人」から電子書籍の世界に入って来たと思います。インターネットの初期も、「おたく」や「アダルト目的」のマニアな人から参入してきたように。
なので、電子書籍の魅力や「読み方」「楽しみ方」をいかに一般に知らしめ普及させるかの方法論が問われていると思います。ボクの知人は、ボクが kindle 出版したのを知ったので、なんとか読もうとしたものの、Amazonのアカウント登録やダウンロードの仕方でつまづいて、読むまでに大きな山をいくつも超えなければなりませんでした。知り合いじゃなければ、ここまではしてくれません。
なので、もっともっと、一般人へ 電子書籍の楽しさを伝えていく活動を「電子書籍の出版者」たちが地道にやっていくことが大事だと思います。
これは縦書きで出版するか横書きか、という不毛な議論を展開している現状ではもう少し時間がかかるのかもしれません。先日も、とある方のブログで「日本で電子書籍を出すなら絶対に縦書きだ」という主張を見て「意味がないことにこだわってるな」と思いました。日本は縦書き文化だから、とか 縦書きの方がカッコいい。なんて、作る側のこだわりに過ぎません。読む側からすれば、そんなこと、どーでもいい。面白くて、ためになり、時間つぶしができればいいだけなのに。
紙の書籍文化のような「常識や権威、カッコ」を振りかざして何になるというのでしょう?
新しい文化が「電子書籍」の文化です。映画がTV に変わっていったように、気軽なテレビに映画の作法を当てはめようとしてもナンセンスです。電子書籍が根付くのは時間の問題だと思います。だから、新しい文化が生まれるカオスの中で、試行錯誤が始まっているのだと思います。
根津幸夫 さんのコメント:
紙の本はすぐに絶版になりほんとうに読みたい本がなくなっていることが多く、電子書籍に期待していました。また専門書など読者が少ないものでも、コストが低ければ長期的にペイするのでは、と思っていたのですが、甘かったのですね。個人的には一度読んだらあまり読み返さないビジネス書籍なども電子書籍の方が気軽で良いと思うのですが。とても残念な気持ちです。
大山賢太郎 さんのコメント:
根津さま
コメントありがとうございます。
そうですね、なかなかマンガ以外の電子書籍が広く行き渡っていかないのが現状という気がしています。そうは言っても、実用書も次第に受け入れられるようになってきているのも事実です。最初のパイが小さいのですが、成長率は意外と大きいと感じています。そんな中、当電子書籍の窓サイトではさまざまな良書をご紹介していきたいと考えています。現在、その準備中ですが、今後の展開を後ほどお知らせしていきたいと思います。ぜひ、サイトの配信に登録してみてください。大山
根津幸夫 さんのコメント:
大山様
コメントありがとうございます。
書き忘れたと思ったことがありましたので、追記させてください。
私は電子書籍にリッチなコンテンツを求めません。Webページでは玉石混交となっている情報を少しでも信頼性の高いものを得る手段として本を読みます。その際、図表などなくてもかまわないぐらいに思っています。
今コミュニティーとコミュニティーの関係性を模索しているのですが、そこでもキーの一つに信頼性が有ると思っています。
人により書籍の読み方は異なるでしょうが、普段Webで情報を集めている者としての一つの意見としてお聞きくだされば幸いです。
根津幸夫 さんのコメント:
再度追伸になります。
登録しようとしましたら、Webページが見つからないとなってしまいました。ページのアドレスをメールしていただけますか?
大山賢太郎 さんのコメント:
電子書籍の窓の基本的な登録はこちらからどうぞ。http://www.denshishoseki-mado.jp/signup
ありがとうございます。
大山
大山賢太郎 さんのコメント:
根津さま
同感です。ますますWebとの関係が深くなっていく中、信頼のおける情報や関係が大切になってきています。特にコミュニティーでの相互関係や信頼は欠くことのできない要素となっていくでしょう。ですから、そのようなことを満足できる解決策を提案できれば、そこには信頼に基づいた関係が構築されていくと思います。当サイトがそのようなことができれば、とてもうれしいです。