Last Updated on 2018年10月26日 by 大山賢太郎
楽天が電子図書館事業に進出!電子書籍は無料? 3月19日に図書館事業や出版業界に激震が走りました。電子図書館サービスを提供する世界最大手OverDrive社を約500億円で買収し、楽天が電子図書館事業に進出すると発表したからです。これは、アマゾンがキンドルで日本の電子書籍に参入して以来の最大のニュースです。
電子図書館に関わる事業は、ここ1年間に急速に展開していました。この楽天の買収により、電子図書館が広まる展開が一気に加速することになりました。しかしこれは、ユーザー側にとってはどんなメリットの有るのでしょう。楽天の電子図書館事業進出で電子書籍は無料となるのでしょうか?
通常の図書館は、基本的には書籍を無料で借りることのできる施設のことです。しかし、これはほとんどの場合には、紙の本のことを指します。電子図書館の登場により、紙ではない書籍、電子書籍も図書館で貸し出してくれることになったのです。
この電子図書館は本当に読書好きにとって良い知らせなのでしょうか?また、現在急速に増えつつある自己出版の著者にとってはどうなのでしょう?この2つの視点から、今回は速攻で考えてみたいと思います。
目次
電子図書館とは?
そもそも電子図書館とは一体何なのでしょうか?まずは、アメリカや海外先進諸国の事情から探ってくたいと思います。
Wikipediaによれば、「電子図書館(でんしとしょかん、e-library)とは、現代のIT(情報技術)化によるコンピュータ・データベースを利用した新たなウェブサイトによる図書館である。」と定義されています。
つまり、これまで貸し出しの対象であった紙の本をウェブ上で電子書籍をデジタルで貸し出すというものです。海外の事例を見ると、公共や学校の図書館などにクラウドサービスを提供する業者を介して提供されているのが実情です。
この電子図書館サービス提供業者の世界最大手のOverDriveは、米国で1万8000館、45カ国58言語で3万館以上に導入されている電子図書館サービスを展開しています。ここに、全世界5,000以上の出版社や著作者から預かっている100万タイトルを超える膨大なデジタルコンテンツを提供しています。(出典:OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が示した「7つの教訓」)
日本における電子図書館の現状
では、日本では電子図書館はどうなのでしょう?ここ1年半ほどの進展を時系列で見てみましょう。
- 2013年では、図書館関係者は否定的だった。
(記事参照:自治体が電子図書館やらない理由~「一発芸で終わりそう」「ICタグの二の舞」10月29日、パシフィコ横浜で行われた「第15回図書館総合展」より ) - 日本の電子図書館は、ほんの一握り
(記事参照:電子書籍の貸出しを行う“電子図書館”(2015年2月12日更新))
この記事によると、2015年2月現在、たった、30程度の図書館しか電子図書館に対応していません。しかも、特別なソフトウェアを必要とするなど、読者にとっての利便性はいまいちというのが本音のところです。 - 2014年5月にOverDrive社と日本のメディアドゥ(取次:出版社と書店の中間業者)が提携し、参入を発表。
(記事参照:「メディアドゥ、電子図書館プラットフォーム世界最大手 米国OverDrive, Inc.との戦略的業務提携に関するお知らせ」)
ここから、大きく日本の電子図書館事業が展開していくことになりました。 - 2014年秋から慶応大学湘南キャンパスで実証実験を開始
(記事参照:「メディアドゥ、OverDrive電子図書館システムの実証実験を慶應義塾大学メディアセンターと開始」)
2014年10月にその方向性が公表されました。 - 日本企業がこれを迎え撃つ体制を整えつつあった
(記事参照:「KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が設立した日本電子図書館サービスのビジネスモデル ── JEPAセミナーレポート」)
2015年3月18日に、KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店の反撃体制が発表されました。 - その翌日、楽天がOverDrive社の全株式を取得する買収を発表。
(記事参照:「楽天、図書館向け電子書籍配信サービス事業者 米OverDrive社の全株式を取得」)
楽天は、三本の柱(eコマース、金融、デジタルコンテンツ)の一つとして、グローバルにデジタルコンテンツ事業を展開していくと説明しています。 - メディアドゥは、OverDrive社との事業に変更はないという
(記事参照:「電子図書館サービス最大手OverDrive,Inc.との戦略的業務提携について」)
同社は楽天との協議の最中とのことですが、今後、楽天の電子書籍事業の一環として取り込まれていくのかもしれません。
楽天のOverDrive社買収と読者にとってのメリットとデメリット
では、われわれ読者にとって、これは何を意味するのでしょうか?
電子図書館が日本津々浦々の公共図書館に採用されていけば、地元の図書館に登録することで、数多くの電子書籍を無料で借りられるようになります。
具体的に一度に読める本の数、貸し出しや返却の方法はどうなのでしょう?
アメリカの事例では、ほとんどの図書館がこのOverDrive社のサービスを使って電子書籍の貸出を行っています。貸出期間は図書館にもより異なりますが、基本的には紙の本と同じように一定期間が終了すると引き続き読むことはできません。貸出期間が終了すると、もう一度貸し出しの手続きをするかオンラインストアで購入しないと読むことはできません。
本を借りるには、地域の図書館のホームページにアクセスし、通常の図書カードに加えてオンライン貸し出しの手続きが必要です。一度に借りられる本の数は、紙の本と同じように限られています。
つまり、読者にとってのメリットは次のようにまとめることができます。
- 無料で貸出ができる
学校や地元の公共図書館であれば、通常は無料で貸出できます。もちろん、私立の営利目的の図書館であれば、マンガ喫茶のような例外もあるかもしれません。 - 図書館に行かなくても良い
電子図書館に登録済みでWifiなどのブロードバンド回線に接続していれば、わざわざ図書館に行く必要はありません。サーバーのメンテナンスを除き、基本的に24時間、1年365日オンライン上で貸出自由です。 - 重くて大きな本を運ばなくて良い
電子書籍はデジタルなので、重さや大きさという制約がありません。何千冊というデータをスマホやリーダー端末に保存しても、追加の重さや大きさを感じること無く持ち歩くことができます。 - 返却期限に遅れることがなくなる
電子書籍はクラウド上にあるサーバーからダウンロードされ、KoboやKindleなどの電子書籍リーダー端末やスマホやタブレット端末にインストールされた無料アプリで読むことになります。デジタル著作権管理により、貸出期限が過ぎると自動的に読めなくなります。 - 貸出中で借りられないことがなくなる
電子書籍はデジタルであるため、発行部数という制約がありません。貸し出しの対象となっている限り、所蔵がないとか貸出中で予約する必要は全くありません。 - メモ、ハイライト、ブックマークなどを自由に書き込みできる。
貸出期間中にメモ、ハイライト、ブックマークなどを自由に書き込むことができます。書籍の返却後もこのデータは残るので、もう一度借りるか購入すれば、そのまま利用することができます。これは紙の本とは全く違う利便性です。 - 破損や紛失のリスクがない
紙の本であれば、図書館の利用者は地域の財産である書籍を責任をもって取り扱うように義務付けられています。破損や紛失は弁償する必要がありますが、電子書籍ではこの心配が全くありません。
もちろん、電子図書館は万能ではありません。読者にとってのデメリットとして考えられるのは次のとおりです。
- 紙の本ではない
デジタルであるということは、紙の本ではないということです。ですから、本をスクリーンで表示できるスマホ、タブレット、パソコン、それに専用のリーダー端末などのどれかが必要です。また、紙の本特有の手に持った質感、ずっしりとした重さや大きさ、贅沢な製本を表現することは難しいですね。 - 借りられる本に制限がある(紙の本と同じ)
一般的な電子図書館のシステムでは、これまでの図書館と同じような貸し出し可能な冊数があります。ですから、端末にダウンロードできるメモリーのスペースがあっても何千冊も同時に借りるわけにはいきません。 - 本を読むためにはデバイスが必要
電子図書館にある書籍は、単なる電気信号として保存されたデータです。従って、これを人間が読むにはスクリーンに表示する必要があります。スマホ、タブレット端末、パソコン、専用のリーダー端末が前提ですが、どうしても必要であれば、電子図書館を提供している図書館でリーダー端末を貸し出しもするようです。
個人出版している著者にとって、電子図書館はメリットが有る?
では、この電子図書館は個人の著者にとってはどうなのでしょう?わずかな著作権料で電子図書館からもらうだけで、沢山の図書館利用者に無料で貸し出すわけですから、電子書籍のオンラインストアでの販売数が激減するように思えます。
これについては、OverDrive社が興味深いデータを公表しています。OverDrive社が展開する海外の電子図書館の経験では、貸し出された電子書籍の4割は返却後購入に結びついている(引用:OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が示した「7つの教訓」)ということです。
基本的に、デジタルである電子書籍は追加コスト無しで貸し出すことができます。つまり、貸し出しの数が増えれば増えるほど、本の売上も増えるということです。これは、出版社にとっても著者にとっても大きなメリットとなります。
結論:
書籍が紙の本のように電子図書館のクラウドシステムから無料で借りられれば、これは読者にとってとても出版・著者側にとっても非常に大きなメリットがあります。
今や、スマホは1人に1台の時代です。図書館からオンラインで借りて、スマホやタブレット端末でいつでもどこでも読書をする時代がすぐそこまで来ています。電子書籍は、すでに黎明期から拡大期への第2の段階に入ったと言えるのでしょう。
最後にひとこと。いかがでしたか?楽天の世界最大の電子図書館事業サービス提供会社のOverDrive社買収により、日本の電子図書館は急速に広まりそうです。これは、読者、出版社、著者のすべての関係者にとって大きなメリットがありそうです。
もちろん、外資によるサービスの日本参入や図書館の追加コストなど議論もありそうです。あなたはどう思いますか?是非、あなたのご意見を下のコメント欄に残してご自分の存在を示して下さい。
@kirabook さんのコメント:
紙の本はなかなか返却しない人が居るだけで、何ヶ月も待たされるということがあります。特に話題の本ではないのに、シリーズ物の一冊がどうしても読めないとかなりストレスになります。
それが解消されるならば、本当に嬉しい事ですね。
ただし、作家さんたちの中には図書館が作家の生活を脅かしているという主張をする人もいますので、さらに便利になるということは作家にとって良い環境になるのかというのが心配なところです。
良い作品がなくなってしまったら残念ですよね。
せっかく電子化するのですから、図書館事業や著者に全額とは言わずとも払いたいという場合などにも対応出来るようになると、さらに良書が生まれる土壌となるのではないかと思います。
月定額の読み放題などを展開している出版社もありますし、適正な有料価格の有料図書館で、多くの出版社を網羅できるのであれば、かなり利用者が出ると思います。
Kindleはスマートフォンアプリの使い勝手の悪さなど、日本独自のマーケティングに乗り遅れている感がありますので、パイオニアとして頑張りを期待しています。
大山賢太郎 さんのコメント:
現在、楽天は買収の採集調査の手続きに入っています。4月中にはすべての買収の手続を完了する予定とのことです。これは、既にOverDrive社と日本の取次のメディアドゥは提携関係を結んで着々と準備を薦めている真っ最中での「寝耳に水」的な出来事でした。電子書籍事業では、規模でまさるAmazonが常に先行してきたわけですが、これで楽天が一矢を報いたという事になりそうです。
これでAmazonが電子書籍事業では圧倒的な不利な立場に置かれます。しかしなぜ、Amazonはずっと以前にOverDrive社を買収しなかったのか?このへんは謎ですが、後から推測も含めてまとめてみたいと思います。