Last Updated on 2018年10月7日 by 大山賢太郎
なぜ電子書籍は軽視され、Kindleストアは批判されるのか? 2016年は電子書籍が世に広まる一大転機となった一年でした。無料お試し版の電子コミックが大ブームとなり、雑誌をはじめ電子書籍が定額読み放題となるKindle UnlimitedやNTTのdマガジンや楽天マガジンが次々と始まりました。
しかし、引き続き電子書籍には不思議なことがいっぱいです。この記事では、その中でも最も大きな2つの疑問点について踏み込んでいきます。
目次
なぜ電子書籍は軽視され、Kindleストアは批判されるのか?
まず最初は、「なぜ電子書籍は軽視されるのか」についてです。2017年早々にして気になる記事が2つ目に入りました。
- 「なぜ電子出版は軽視されるのか」ITmedia ビジネスOnline 2017年01月18日
- 「電子書籍の購入は作家の応援にならない」は本当? 現役編集者に聞いた KAI-YOU 2017.01.31
どちらも、紙の本と電子書籍を出版業界から比較し紙の本に軍配を上げる論争です。紙の本は出版事業にとって電子書籍よりも重要であり、紙の本の売上至上主義でビジネスが行われているというものです。
これらの記事で指摘されている問題点は以下の2つです。
- 電子書籍の市場は小さく重要度が低い。
- 日本の出版業界の特殊性から紙の本至上主義とならざるを得ない。
最初の電子書籍の規模に関する点ですが、講談社など大手出版社でも電子書籍の売上は書籍全体の5%程度のようです。ですから、電子書籍の中での売上やランキングなど、書籍全体の判断には全く影響がないというものです。
実際に、少し前に大きな話題になった又吉☓さんの「火花」は240万部の大ヒットとなりまし。しかし、電子書籍版はわずか13万部と5%程度です。
2番目の点はもう少し複雑です。これは、日本の出版業界の歴史的な成長の土台となったビジネス慣習があるからです。
一般にはまだ多くの人は知らないのですが、出版関係や著者仲間内ではかなり知れ渡ってきている事実です。
これは、戦後間もなく再販価格維持制度と呼ばれる独占禁止法の例外として書店の定価販売が認められたものです。
またこれに、出版社が取次と呼ばれる卸会社を介して書店の流通する時点で本の売上が計上されるという、特殊な会計と財務の制度もあります。これは、バブル経済直後までとてもうまく機能しました。
もちろん、取次を介した本が全部売れるわけはありません。なんと、平均して40%は返品されるそうです。
これにまた、近年の出版不況で毎年本の売上は右肩下がりとなっています。紙の本の製本に関わる印刷代や在庫・流通費用は膨大です。売上の4割を返金するわけにも行かず、次々と新刊を出版することで自転車操業しています。
年間に、なんと8万冊もの本が次々と出版され、最初の数週間で売れなかった本は次々と返品されてしまいます。倉庫で在庫となりますが、一定期間売れない本は裁断され再生紙となります。
ですから、出版社、印刷会社、取次会社、書店など、これまで紙の本の販売で生きてきた出版業界には、並々ならぬ事情があります。
このように、街の書店に並んでいる紙の本には大変な苦労が裏側にあるのです。
この結果、出版の現場では紙の本が売れてナンボ、出版社でも電子書籍の部隊の存在と売上は軽く見られているというのです。
つまり、電子書籍は、紙の本と同時に(紙の本の結果として)作成される副産物という位置づけです。
ですから、電子書籍は軽視され、読者が電子書籍を購入したり読み放題でダウンロードして応援しても、一向に出版社では注目されず、紙の本を積極的に重版をかけたり書店の平積みにされたりするわけではありません。
最終的には、出版社はそれを無視するばかりか、逆に紙の本の売上が食われたとまで感じているようです。
電子書籍を読者と著者の視点から見るとどうなる?
しかしこれは、いずれも本の供給側・出版社側の事情です。本を読む消費者側やコンテンツを提供するもの書き側から見るとどうなるでしょう。
1. 読者の視点
私たちが物理的に手にする紙の本は、ほぼ全ては出版社やこれまでの書店の経路を通して出版されたものです。書店で本を選ぶときの選択肢は、出版社のブランドや製本の品質などは重要な要素です。
どの出版社からのものか、出版社のコンテストで入賞したかどうか、書店に平積みにされてるいるか、新聞広告や雑誌の書評など、出版業界から得られた情報から選択するわけです。
ネット上の口コミなども多少の参考にはしますが、少なくとも、これまでは紙の本の出版業界の情報がメインでした。
しかし、Kindleストア、楽天Koboなど続々と登場する電子書籍書店で著者が直接本を出版できるようになると、その選択肢は一気に広がりました。
読者が本来求めているのは、自分が読みたいコンテンツです。また、自分が選んだ著者の作品です。つまり、欲しいのは自分が楽しむための小説やストーリー、役立つ知識なのです。
これまでは、出版社が選んだものが読者の選択肢でした。それが、これまでの出版経路以外から続々と登場する多種多様なコンテンツが目の前に現れています。
しかしネット上には多種多様な情報がちりばめられています。SNSや様々なブログ情報などから、自分が欲しい本を探すのは大変です。
どのように自分が読みたい本を見つけ、これはと思う著者とつながっていくのか。私たち本の棚はそのお手伝いをしたいと考えています。
2. 著者の視点
読者からの視点と同様に、自分のコンテンツを本として世に問う、売り出したいという欲求を満たすには、これまでの出版の経路以外にはほぼ不可能でした。
実は、日本の電子書籍の市場はKindleストアの登場まで世界で最も大きかったのをご存知ですか?
それは、今は消えて久しいガラケーのケータイ小説です。ドコモの課金システムなどで配信され、若者に大変な人気でした。もちろん、今は存在しません。
いまでは、「アルファポリス」「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」などといった小説やコミックなどの投稿サイトで新しいものが続々と登場しています。
これらサイトの特徴は、誰でもがすぐに投稿してランキングで注目されることができます。出版のプロの目に止まれば、出版社からメジャーデビューすることさえ可能です。
いわゆる、「インディ作家の登竜門」と行っても良いかもしれません。
しかし、ラッキーにも出版社の目に止まって紙の本と同時に電子書籍が発売開始されても、紙の本が売れなければ書簡からは返品され、電子書籍も売れないままです。
ほとんどの個人の著者にとって本格的に売り出すにはオンライン電子書籍書店が本格的な出版の唯一のプラットフォームとなります。
これにはKindleストア、楽天Kobo、その他国内のものが含まれます。電子書籍で自己出版のハウツーものを読めば、比較的簡単に出版までこぎつけられます。
しかし、出版のハードルがいかに低くなって簡単に電子書籍としてOnline書店に並んだとしても、売れるかどうかは別物です。
出版社から本が出て書店に並んでも、初版の印刷部数の印税が入ってその後は鳴かず飛ばず。書店から姿を消して出版社も全く販売努力をしてくれるわけでもなく・・・。
出版社に頼るか、自分自身の努力で売るのか。
自分の努力で売ろうにも、FacebookやTwitterといったSNSやブログを始めてみるが、なかなか成果に結びついていない。有効な手段が見つかっていないのが現状ではないでしょうか。
いかに露出度を上げ、読者と直接つながる手段を手に入れるのか。私は、そのヒントは海外の成功事例にあるのではないかと考え徹底的に調べました。
すると、あの有名ビジネス雑誌のフォーブスが取り上げたイギリスのある平凡なインディ作家の記事が目に止まりました。
マーク・ドーソンというロンドン郊外に住むサラリーマンのシンデレラストーリーです。
彼は日中は会社員として働きながら、全く出版社の助けを借りずに、ある方法を使って一年でAmazon.comのKindleストアのトップセールスの作家にまで上り詰めました。
日本の多くのインディ作家や個人著者にとっても、彼の方法はヒントに飛んだものと言えそうです。ケーススタディとしてまとめましたので、参考にしてください。
マーク・ドーソン: Kindleストアで最も有名になったインディ作家(ケーススタディ)
なぜ、Kindleストアは批判されるのか?
次に、「Kindleストアはなぜそこまで批判されるのか」についてです。
前回のブログ記事、「Kindle誕生秘話の裏側: なぜKindleストアは生まれたのか?」でもKindleストアの誕生の経緯について触れました。
そこで解説したように、全米最大のブックフェアである有名日本企業の新製品を見たAmazonのCEOジェフ・ベゾスが驚愕の目で見たものが、現在のKindleストアのきっかけとなりました。
2007年にアメリカでKindleストアが始まり、日本では2012年に鳴り物入りでKindleストアの開始となり、その後の電子書籍が徐々に売れ始めます。
Amazonが2000年に日本へオンライン書店として参入して以来、すでにこれまでに日本最大の書店となっていました。そこに、紙の本の売上を減らすことになる電子書籍の登場です。
黒船襲来と出版業界では大騒ぎとなりました。日本でのKindle開始以降、電子書籍は徐々に市場に浸透し始めます。
2016年年7月のインプレス総合研究所のリリースによれば、2015年の電子出版市場は1826億円(前年比29%増)と大きく成長しています。
けん引しているのは8割以上を占める電子コミックですが、雑誌やビジネス書や小説などのコミック以外の書籍もプラス成長です。2016年は2280億円と予想されています。
一方の紙の出版物ですが、出版科学研究所によれば2015年の売上は約1兆5,000億円で、これは前年の5%減です。日本の出版物の売上は1997年をピークに右肩下がりです。これが出版不況と言われる所以です。
つまり、現在でも紙の本8冊に対して1冊は電子書籍売れていることになります。2020年には3,000億円の予想ですので、紙の本がこのままであったとしても市場の2割以上、5冊に1冊が電子書籍となっていきます。
そして、これに拍車をかけているのが月額定額の読み放題サービスです。
2016年8月に始まったKindle Unlimited読み放題サービスや、雑誌の定額読み放題サービスであるドコモのdマガジンや楽天マガジンなどが電子書籍市場を大きく牽引しています。
この中でも特筆すべき存在がAmazonのKindle Unlimitedです。
Kindle Unlimitedは2014年に6月にアメリカで始まり、日本で開始される前にすでにAmazonの12カ国目のKindleストアで始まっていました。
なぜ日本での開始が遅れたのかというと、出版社との交渉で長い時間がかかった模様です。
そこで日本Amazonは、大手出版社の参加を促すために優遇的なロイヤルティ報酬の支払いを契約条項に含めました。これは、読み放題サービスで2016年内に10%を読めば本の売上として支払うというものと報道されています。
海外のKindleストアでは、大手出版社は全くと行ってよいほど参加していません。中小の出版社と個人の著者のタイトルがほとんどです。ですから、その批判も強く、あまり魅力的でないという評価がよく聞かれます。
これに対して日本Amazonが頑張って魅力的な読み放題サービスにしてくれたのは読者からは大歓迎です。
しかし、これを原因として大騒動が起こりました。出版業界やKindle読者からクレームの嵐となったのです。その顛末をまとめます。
1、この特別条項の対象とならなかった中小の出版社や個人の著者からの不満
まず第一に、大手出版社の参加を促すために優遇的な契約条項を限られた出版社に対して付与したことで、その恩恵に預かれなかった中小や個人の著者から大クレーム、不満続出です。
まずここからブログなどで火がつきました。
2、サービスの開始2週間という短期間で数千冊が読み放題の対象から外された
Kindle Unlimitedには、最初の30日間は無料お試し期間があります。この期間中にお試しのアカウントが殺到し、魅力的なタイトルを続々とダウンロードしていったのです。
特にマンガは文字を読む実用書や小説よりも素早く最後まで読めます。マンガ以外でも、次々とAmazonが契約で本の実売と認めた条件を満たしていきました。
そして出版社に支払うロイヤルティ報酬が、わずかな期間でAmazonが予め用意していた販促予算の1年分を超えてしまったというのです。
そこであわてたAmazonは出版社に同意を得ることなく、突然、対象タイトルをKindle Unlimitedから外すという暴挙に出ました。怒り心頭なのは大手出版社です。
1000点を超えるタイトルを削除された講談社はすぐにクレームをつけたというニュースが流れました。小学館や光文社もおなじです。
最終的には、1700点が削除されたようですが、年末をまたいで1月からは契約を変更して徐々に削除されたタイトルが戻り始めているようです。
この騒動は、大手新聞や雑誌等を始めNHKまでもが大きく取り上げる騒ぎとなりました
3、読み放題に参加したAmazonの顧客がプログラムから追い出された
もう一つ、大手出版社の大騒ぎの影でAmazonの顧客からも大クレームが巻き起こりました。
もちろん、最初は対象タイトルとして表示され読みたいと思っていた本が突然削除されたことに顧客は大騒ぎしました。これは当然です。
しかしもう一つ、あまり報道されていないことがあります。
この騒動を巻き起こした真犯人として一部のAmazon顧客がKindle Unlimitedから削除されたのです。
これは、悪質な顧客行為ということで、Amazonから突然メールが入って「あなたは違反行為をしたのでプログラムから削除します」といわれたというのです。
一回にダウンロードできる本の数は10冊までという制限があるのですが、返却すればまた別の本が借りられます。(これは貸出の上限がある公共図書館のようですね。)
これを何度も繰り返して、次々と本を読み漁ったというわけです。「これが違反行為だとは、どこにも書いてないだろう!」と、これまた大々クレームの嵐となっていました。
なんともいやはや、大変な騒ぎです。
しかし、結果的によく考えてみれば、Amazonの立場から言えば市場でバズって炎上する「宣伝効果抜群」のイベントだったのかもしれません。
Amazonとしては「してやったり」です。
Kindleストア誕生に隠された大変な使命とは・・・
今回の騒動の原因は明らかでAmazonに責がありそうです。
そうは言っても、Amazonが大手出版社と交渉して講談社や小学館などの大手出版社をKindle Unlimited読み放題に参加させたAmazonの顧客経験を第一とする戦略は、読者の立場からすれば歓迎・評価されるべきだとも言えそうです。
だからこそ、Amazonの予想をはるかに超えるアクセスが有り、販促予算オーバーという事態でタイトル削除して出版社の反発を買うことになったわけです。しかも、これは読者側からも大きなクレームになってしまいました。
しかし、ここで私には根本的な疑問が湧いてきます。
「なぜここまでAmazonは批判されるのでしょう?」
実は、そこには表には見えてこない、裏側のストーリーが隠されています。
前回の記事(「Kindle誕生秘話の裏側: なぜKindleストアは生まれたのか?」)では、同じ頃に立ち上がったAWSのサイドストーリーとジェフ・ベゾスがKindleストアを始める大きな転機になった理由についてお話ししました。
そこにはある有名日本企業の存在がありました。そしてそれは、Amazonの基本的な存在価値を奪うほどの脅威をジェフ・ベゾスが感じる程のものでした。
彼はすぐにプロジェクトチームを立ち上げます。彼自身も異例なまでの時間をかけてプロジェクトに参加していきます。
なんとそこでは、Kindleストアの立ち上げに際して非常に重大な使命をプロジェクトチームに命じていました。それは、今回の騒動の根本的な原因にもつながるものでした。
ジェフ・ベゾスの異常なまでの執念がそこには垣間見れるのです。
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